公募研究
本年度は、SPring-8のX線非弾性散乱及びJ-PARC MLFの中性子非弾性散乱を用いたFCC系の高エントロピー合金の動的構造因子からフォノン分散、力学特性の評価を目指した。研究協力者から単結晶試料の提供を受け、当初より計画していた動的構造因子の観測に成功した。X線非弾性散乱では、各対称性の高い方位方向で縦波・横波に関係なく、ゾーン境界に向けての線幅の単調な増加が観測された。これはBCC系高エントロピー合金の第一原理計算による動的構造因子から議論されていた結果と定性的に一致する。また、X線非弾性散乱と中性子非弾性散乱の動的構造因子においてフォノン分枝に不一致が生じていることを見出した。X線と中性子では各構成元素の散乱断面積が異なっており、ハイエントロピー合金の中性子散乱ではある特定の元素が強調される。不一致は、構成元素の質量やX線と中性子の散乱断面積の差に起因していると考えられる。この結果については現在詳細な解析を進めている。
3: やや遅れている
研究計画では、ダイナミクスに関する知見が得られる非弾性散乱及び局所構造に関する知見が得られる回折実験を両輪に研究を推進することを検討していた。しかしながら、非弾性散乱実験の解析において、当初考慮していなかった非干渉性散乱の効果を考慮することとなった。このため、非弾性散乱が主たる実験、回折実験が非弾性散乱実験を補う実験と位置づけ、主従を付けた研究計画に変更して、目的の達成を目指すことにした。X線非弾性散乱と中性子非弾性散乱の現時点での成果は、BCC系高エントロピー合金の第一原理計算による動的構造因子から議論されていた線幅の広がりをFCC系高エントロピー合金で実証することとなった。X線非弾性散乱と中性子非弾性散乱における動的構造因子の不一致やゾーン境界に向かって線幅が広がるという結果は計算との定性的な一致を見たことから、普遍性の検証に向けた準備を進めている。
来年度は新学術領域の最終年度にあたるため、成果創出に重きを置いて研究を推進させることを考えている。「現在までの進捗状況」に書いたように、X線と中性子の非弾性散乱の結果を比較することにより、第一原理計算の予測を定性的に実証する知見が得られた。今後は、高エントロピー合金だけではなく、中エントロピー合金を含めた動的構造因子における普遍性の検証を実施する。この計画を進めるためには、従来の試料提供など実験分野での連携だけではなく、理論家との連携も必要不可欠である。その意味で、他の計画班や公募班との連携をより深めながら、計画の実施を進めたいと考えている。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Hyperfine Interactions
巻: 242 ページ: 32-1 - 32-10
10.1007/s10751-021-01759-x
巻: 242 ページ: 21-1 - 21-10
10.1007/s10751-021-01743-5