X線非弾性散乱及び中性子非弾性散乱の相補的な利用により、高エントロピー合金及び中エントロピー合金として代表的な面心立方格子系の合金系であるCrMnFeCoNi及びCrNiCoのフォノン分散の全貌を明らかにすることができた。計画当初は、広い逆格子空間での回折実験と非弾性散乱実験を組み合わせてこれらの物質群の力学特性を明らかにすることを計画していたが、1年目にX線と中性子の非弾性散乱から得られるフォノン分散に不一致が観測されたことから、非弾性散乱実験だけに注力して研究を遂行することとした。 主要な成果としては、高エントロピー合金や中エントロピー合金に共通する結果として、そのフォノン分散が結晶とガラスの中間に位置する物質系であることを実証できたことである。また、高エントロピー合金や中エントロピー合金特有の現象としては、スペクトルの解釈が比較的容易なX線非弾性散乱において、フォノン励起のスペクトル幅に原子間の結合エネルギーの方位依存性を示唆する結果が得られたことである。この結果は、申請時に想像していた特定元素が一連の高エントロピー合金の優れた力学特性に寄与するという提案とは異なる視点の新たな知見であると考えられる。さらに、計画当初は予定していなかった計画班の理論グループとの共同研究も発展させることができた。理論グループによる第1原理計算に基づくフォノン分散の結果と実験結果の比較を行い、当初計画していたフォノン分散におけるカクテル効果の検証に向けた考察にまで発展させることができた。
|