公募研究
本研究課題では、主にコンプトンカメラ偏光計を用いた共鳴再結合X線の偏光度測定を行っている。本研究で用いるコンプトンカメラ偏光計は、ひとみ衛星搭載用として宇宙研を中心に開発されたものであり、Si散乱体をCd/Te吸収体が囲む構造により、入射X線のコンプトン散乱事象をとらえる。Si、Cd/Teそれぞれ多層化、セグメント化されているため、散乱および吸収の起きた位置を3次元的にとらえることで、散乱角を検知することができる。散乱角は入射X線の偏光方向に依存するため、散乱角度分布から入射X線の偏光度を知ることができる。コンプトンカメラによる偏光度測定は、2年間実施された前公募研究において準備が完了し実験も開始していたが、検出器回転機構を備えた恒温槽を2021年度に導入した。これにより検出器の冷却温度を下げることで雑音を抑制することが可能となり、更に検出器を回転させることにより検出器の応答特性を詳細に評価することが可能となる。2021年度においては、その機構を検討した上で構成物品を導入した。加えて、前公募研究において実施されて解析が進行中であったBiイオンの放射性再結合X線の偏光度測定の実験結果をまとめ、Physical Review A誌に投稿し、査読を経た後に掲載された。また、原理的に無偏光であるはずのベリリウム様ビスマスの共鳴再結合X線の偏光度を測定したところ、極めて大きな偏光度を有するという結果がこれまでの測定において得られた。2021年度に理論解析を重ねた結果、それは異なる部分波同士の干渉効果によるものであることが分かってきた。その理論解析を協力研究者とともに行った。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ感染症拡大の第5波、第6波により、実験のスケジュールなどに多少の影響は受けたものの、おおむね計画通りに進行している。前公募研究において実施された実験の結果は解析が順調に進み、成果も当該分野の権威ある雑誌に掲載されるに至った。さらに実験を発展的かつ効率的に進めるため、検出器の冷却環境および系統的不確かさの改善を図った検出器システムの改善を行い、その準備も整った。また、原子物理における常識的な考えでは理解できないベリリウム様イオンの二電子性再結合X線に対する偏光度観測結果についても、協力研究者と頻繁に議論を重ねることでようやく理解の糸口が見えてきている。本研究課題の最も重要な課題であるリチウム様イオンの二電子再結合X線に対する偏光度観測に関しても、ブライト相互作用のゼロ周波数近似の極限を探る不確かさを得ることが出来ている。最終年度である2022年度において、改善された実験システムを用いることにより、例えば水素様イオンの放射性再結合X線の偏光度測定について、電子ビームエネルギー依存性や原子番号依存性を系統的に精度よく調べる体制が整った。
最終年度となる2022年度は、2021年度に構築した新たな実験システムを用いることにより、まずは水素様クリプトンイオンの放射性再結合X線の偏光度測定を行う。以前にも行った実験であるが、不確かさの改善について確認した後、電子ビームエネルギー依存性を調べる。加えて、クリプトン以外のキセノンなどについても同様の実験を行うことで原子番号依存性を調べる。原子番号あるいは電子エネルギーに応じて、スピン反転などの相対論効果の出現が期待できる。加えて、原子物理における常識的な考えでは理解できないベリリウム様イオンの二電子性再結合X線に対する偏光度観測結果について、理論解析を進め論文として投稿する。リチウム様イオンの二電子再結合X線に対する偏光度観測に関しても、ブライト相互作用のゼロ周波数近似の極限に迫る結果を解析し、論文としてまとめる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Physical Review A
巻: 105 ページ: 023109-1~7
10.1103/PhysRevA.105.023109
Review of Scientific Instruments
巻: 92 ページ: 063101-1~10
10.1063/5.0050826
http://yebisu.ils.uec.ac.jp/nakamura/
https://member.ipmu.jp/SpaceTech_to_QuantumBeam/publications/2021-a01-5/index.html