本研究課題では、コンプトンカメラ偏光計を用いた多価イオンの再結合X線の偏光度測定を行っている。これは、宇宙観測用に開発された最先端の検出器を地上の原子物理実験に適用する独創的な研究であり、2019-2020年度の前公募研究において準備が完了し実験も開始していた。2021年度は、検出器の冷却温度を下げることで熱雑音をより抑制した上で、応答特性をより詳細に評価するための検出器回転機構を備えた恒温槽を導入した。今年度はその回転機構付恒温槽を利用して、検出器の角度を変えた測定を繰り返し行うことで、偏光度測定の系統的不確かさをより詳細に評価した。その結果、これまでの解析方法に問題はなく、目的としている精度を満たしていることが改めて確認できた。この結果については本研究に参加した東大大学院生の博士論文の一部としてまとめられ、投稿論文としても準備を進めた。加えて、再結合X線偏光度のスピン反転効果について検討し、その観測のため、より高エネルギー、より高価数イオンによる観測を行った。 上記の実験に加え、昨年度までの実験で得られていたベリリウム様イオンの再結合X線の偏光度に関する予期せぬ結果について検討を深めた。その結果、本来無偏光であるはずの2電子性再結合X線が、放射性再結合との特異な量子干渉効果によって大きな偏光度を示しているということが明らかになった。2電子性再結合は中間状態を介する共鳴的な再結合過程であり、中間状態を介さない非共鳴的な放射性再結合と量子干渉を起こす。通常、量子干渉を起こすのは初期状態と終状態が同じ場合に限られるが、本研究で観測された量子干渉は異なった部分波同士が起こす干渉効果であった。この結果はPhysical Review Letters誌に掲載された他、電気通信大学他からプレスリリースされた。
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