公募研究
現代日本においてうつ病は身近な精神疾患であるものの、その病態機序は十分に理解されていない。うつ病の病態メカニズムを解明するため、本研究ではうつ病に深く関わることが知られている『内側前頭皮質』に着目し、脳構造が我々ヒトに近いサルと、最先端の分子遺伝学的手法による詳細な回路解析を可能とする齧歯類(マウス・ラット)において、種間横断的な研究を展開する。霊長類(ヒト・サル)と齧歯類(マウス・ラット)の両種において、内側前頭皮質は機能の異なる亜領域から構成されている。2021年度は、この内側前頭皮質 亜領域が構成する神経回路の構造を様々な神経回路トレーシング法を用いて調べた。特に注目したのが、内側前頭皮質とともにうつ病に深く関わる『扁桃体』と『海馬』と形成する神経回路である。これまでの研究で、内側前頭皮質 亜領域から扁桃体への投射に齧歯類(マウス・ラット)と霊長類(サル)で共通するパターンがあることを明らかになってきた。両種において、腹側部に位置する内側前頭皮質 亜領域は扁桃体基底内側核に密に投射する一方、より背側に位置する内側前頭皮質 亜領域は扁桃体基底外側核に密に投射していた。さらに、海馬から内側前頭皮質 亜領域への投射様式を齧歯類において調べた。その結果、海馬中間部は内側前頭皮質の腹側部(背側脚皮質)に入力する一方、海馬腹側部は内側前頭皮質のより背側部(下辺縁皮質)に入力することを明らかにした。これらの結果は、内側前頭皮質の亜領域が、同じくうつ病に関わる海馬と扁桃体と並列回路を構成することを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
2021年度の研究で、内側前頭皮質 亜領域を中心とする領域間回路に着目し、内側前頭皮質から扁桃体への投射に齧歯類(マウス・ラット)と霊長類(サル)で共通するパターンがあることを明らかにした。また、内側前頭皮質 亜領域が海馬の異なる部位からの入力を受けることを齧歯類で示した。
2022年度は、内側前頭皮質の亜領域回路について、抑制性ニューロンを含む詳細な回路構造を齧歯類で明らかにする(実験①)。さらに、内側前頭皮質の亜領域が形成する並列回路の機能をマウス、及びサルにおいて明らかにすることを目指す(実験②, ③)。【実験①】マウス内側前頭皮質の回路解析:内側前頭皮質の亜領域が海馬と扁桃体と構成する並列回路の詳細な配線についてマウスで調べる。具体的には、(1)アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いた経シナプス性の順行性トレーシング法、及び(2) in vitro 脳スライス標本における電気生理学・光遺伝学的手法を用いた回路マッピング法(CRACM)を用いる。(1)では抑制性ニューロンへの選択的遺伝子導入を可能とするAAVを使うことで、抑制性ニューロンを含む詳細な回路構成を同定する。さらに、(2)では標的回路におけるフィードフォワード抑制の強さを明らかにする。これにより、うつ病を始めとした様々な精神病態に関わるとされる、内側前頭皮質の興奮性/抑制性の活動バランスについて調べる。【実験②】マウスにおける内側前頭皮質回路と抑うつ症状の因果関係:内側前頭皮質の回路と抑うつ症状の因果性を検証するため、化学遺伝学的手法(DREADD)を用いた経路選択的機能阻害法を用いる。内側前頭皮質 亜領域が形成する並列回路への機能介入により、(a)健常個体において抑うつ症状が引き起こされるのか、(b)社会的敗北ストレスによりうつ病になった個体において症状が改善されるのか調べる。【実験③】サルにおける内側前頭皮質回路と抑うつ症状の因果関係:上記②と同様の実験を(a)健常なサルと(b)内側前頭皮質への反復経頭蓋磁気刺激によりうつ病になったサルに対して行ない、内側前頭皮質 亜領域が形成する並列回路と抑うつ症状の因果性を調べる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)
bioRxiv
巻: - ページ: -
10.1101/2022.03.31.485431
Frontiers in Neural Circuits
巻: 15 ページ: -
10.3389/fncir.2021.790116
https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research/teacher/detail---id-9041.html
https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/date/research/detail---id-49938.html