公募研究
シナプスの分化誘導を担う細胞接着分子Neuroligin 3 (NLGN3)遺伝子上の様々な変異が自閉スペクトラム症患者より見出されており、NLGN3が社会性発達の調節に重要な役割を担うことが示唆されている。しかし、NLGN3の機能変化が社会性発達の障害を引き起こすシナプス・回路病態機構は未だ十分理解されていない。従来、シナプス後部のNLGN3はシナプス前部のNeurexin (NRXN)1-3と結合してシナプスを誘導し(NLGN3古典経路)、この相互作用の破綻が自閉症を引き起こすと考えられていた。私達はシナプス前部オーガナイザーである受容体チロシン脱リン酸化酵素PTPRDのインターラクトーム解析から、PTPRDとNLGN3がシナプス間隙を挟んで結合してシナプスを誘導する新規の経路(NLGN3非古典経路)を見出した。NLGN3は同一の結合面を使って、全く同じ親和性でNRXN 及びPTPRDと結合するため、両経路は競合関係にあることが示唆された。NLGN3-PTPRD複合体の結晶構造を基にして、NRXN1-3もしくはPTPRDとの結合を選択的に遮断したNLGN3変異体をデザインし、それらの点変異を導入したノックインマウスを作出して、それぞれのシナプス誘導経路が社会性発達に与える影響を解析した。その結果、非古典(PTPRD)経路を遮断したNLGN3点変異マウスでは社会性が低下したのに対して、古典(NRXN)経路を遮断した変異マウスではむしろ社会性が亢進した。このことから、古典経路と非古典経路のバランスによって社会性が両方向性に調節されており、このバランスの破綻が社会性の障害につながることが考えられた。一方、PTPRDは様々なシナプス後部接着分子と競合的に結合してシナプスを誘導する。このシナプス誘導バランスを選択的に改変したモデルマウス系統を作出した。
3: やや遅れている
当初予定していたPTPRDによるシナプス誘導バランスの改変マウスモデル系統の樹立には成功したが、NLGN3による社会性発達調節の責任回路を可視化したマウス系統の樹立(ゲノム編集によるレポーター遺伝子のノックイン)がうまく進んでいないため。
NLGN3による2つのシナプス誘導経路の破綻が社会性発達の障害を引き起こす回路機構に関する解析を進めるため、引き続き、社会性発達調節の責任回路の可視化マウス系統の樹立を目指す。また、PTPRDによるシナプス誘導バランスを改変したモデルマウス系統の解剖学的、行動科学的解析を進め、シナプス誘導バランス変調が神経発達障害に与える分子細胞機構の解析を進める。
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Nature Communications
巻: 12 ページ: 6767
10.1038/s41467-021-27080-3.
FEBS Journal
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10.1111/febs.15666.
https://www.ils.u-toyama.ac.jp
http://www.med.u-toyama.ac.jp/molneurosci/index.html