前年度に、ゲノムコピー数バリアント(CNV)データを用いて、Gene ontologyに基づいた遺伝子セット解析を行い、双極性障害(BD)、統合失調症(SCZ)、自閉スペクトラム症(ASD)の病態に関わるパスウェイを同定した。その中の1つであるシナプス機能に着目し、R4年度に詳細な解析を行った。具体的には、シナプスに関するデータベースであるSynGO(Synapse Gene Otology)に基づいて、遺伝子セット解析を行った。SynGOには、シナプスタンパクとそれに関連する生物学的プロセス、分子機能、細胞の構成要素を包括的に網羅した情報がまとめられている。BD、SCZ、ASD患者および健常者合わせて8700例から得られたCNVデータを用いて、健常者CNVと比較して、患者CNVが集積する遺伝子セットを、ロジスティック回帰モデルを用いて検討した。その結果、SCZと関連を認めた生物学的プロセスとして、シナプス小胞エクソサイトーシスやシナプス小胞サイクル等を見出した。SCZと関連する細胞の構成要素として、シナプス後部(シナプス後膜)に加えて、シナプス前部を同定した。ASDでも、関連する生物学的プロセスとしてシナプス小胞エクソサイトーシスを見出した。ASDと関連する細胞の構成要素としてはシナプス後膜に加え、シナプス前膜を見出した。一方、BDに関しては有意な関連を示す遺伝子セットは認めなかった。以上から、SCZとASDの両疾患では、シナプス前部とシナプス後部の両方の部位が病態に関与していることが示唆された。
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