公募研究
脳深部に位置する側坐核は”やる気“を生み出す元となる報酬学習に重要な役割を果たしています。近年の研究では、側坐核の活動が低下することがうつ病の発症に関与している可能性が示唆されているものの、その活動制御機構については不明な点が多く存在する。報酬刺激時に放出される神経伝達物質ドーパミンは、側坐核の神経細胞の興奮性を高めることが知られている。研究グループは、1型ドーパミン受容体(D1R)の刺激によりリン酸化が増加するタンパク質を100種類以上同定した。そして、D1Rのシグナル伝達経路を絞り込み、ドーパミンがPKA/Rap1/ERK経路を介してD1R-MSNの発火率を高め、報酬行動を促進することを見出した。さらにERKはKCNQ2を直接リン酸化し、自身のチャネル活性を負に制御する。これにより、側坐核の神経細胞の興奮性が高まることでコカインによる報酬行動が誘発されることを突き止めた(Tsuboi et al, Cell Rep, 2022)。また、アセチルコリンは、学習、認知、情動行動に重要な役割を担っています。ムスカリン性アセチルコリン受容体(M1R)は、忌避に対する学習と行動を制御するが、その分子基盤は不明であった。M1RはPKCの活性化を介してβ-PIXのリン酸化を亢進させる。リン酸化したβ-PIXはPAKを活性化させることで忌避学習を制御することを明らかにした。次に認知症治療薬ドネペジルを投与した薬理モデルマウスを用いてシグナル伝達解析を行った。ドネペジルはM1R-PKC-β-PIX経路を介してPAKを活性化し、忌避学習や記憶を促進させた。これらの結果から、M1R-PKC-β-PIX-Rac-PAK経路はアセチルコリンの下流シグナルとして忌避学習や記憶を調節することが分かった(Yamahashi et al, Mol Psychiatry, 2022)。これらの研究成果から、情動行動を制御するシグナル伝達経路の活性を制御することが、うつ病などの報酬回路の異常を伴う精神疾患の創薬ターゲットとなる可能性が示唆されました。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 23 ページ: 11643
10.3390/ijms231911643
Cell Reports
巻: 40 ページ: 111309
10.1016/j.celrep.2022.111309
Molecular Psychiatry
巻: 27 ページ: 3479-3492
10.1038/s41380-022-01643-2