研究領域 | マルチスケール精神病態の構成的理解 |
研究課題/領域番号 |
21H00198
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
内田 周作 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10403669)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ストレス / うつ病 / エピジェネティクス / レジリエンス |
研究実績の概要 |
ストレス適応の脳内メカニズムの統合的理解には、分子・細胞・回路・行動を個別に把握するだけでなく、階層横断的な解析が必要である。「動物らしさ」を特徴づける個体差・性格・個性や精神病態の異種性の発現メカニズムを理解するためには、化学物質を生き物に変換する役割を担う分子複合体階層が重要である。しかしながら、現状の分子から行動に至る多階層解析においては、細胞内分子複合体の動態と脳機能との因果を十分に理解するに至っていない。本研究では、分子とその上位階層(細胞・回路・行動)との間をつなぐ”分子複合体”の微小空間での動態を観測・計測・操作し、精神疾患発病脆弱性との関連が指摘されている「ストレス適応機能」との因果を解析することにより、ストレス感受性制御の構成的理解を目指す。本年度は以下の成果を得た。 1:ストレス感受性制御に関わるKDM5C複合体の同定。野生型C57BL/6J (B6) マウスは軽度ストレス負荷に対して適応反応(レジリエンス)を示すが、KDM5C過剰発現マウス(B6系統)はストレス脆弱性を示した。一方、ストレス脆弱性系統(DBA)の内側前頭前野KDM5Cをノックアウトするとストレスレジリエンスを獲得した。ストレス負荷後のKDM5C複合体の網羅的定量を行った結果、KDM5Cと相互作用するタンパク質を同定した。 2:KDM5C複合体の細胞レベルにおける役割の検討。実験1で見出したKDM5Cの相互作用因子について、当該因子の機能を抑制したところ、ストレス誘発性のスパイン密度低下が消失したことからストレスレジリエンスを示すことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレスレジリエンス・感受性制御の関わるKDM5Cの相互作用因子を同定し、細胞レベルでの検証を終えた。2年目の行動レベルへの検証に向けた実験の準備も整っており、研究は予定通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記実験で見出したKDM5Cの相互作用因子について、当該因子の発現をノックダウン、機能抑制、機能獲得した際にストレス誘発性の行動異常に及ぼす影響を解析する。社会行動はソーシャルインタラクション試験、アンヘドニアはスクロース嗜好性試験、不安行動はオープンフィールド試験を用いる。また、KDM5Cの相互作用因子について、KDM5Cとの相互作用ドメインを欠失させた変異型KDM5Cを過剰発現するマウスを作製し、ストレス誘発性の行動異常に及ぼす影響を解析する。行動試験については既に確立している。社会性敗北ストレスに加えて予測不能ストレスモデルも確立しており、代替法も充実していることから、研究遂行に何ら問題はない。精神疾患発病脆弱性に関わるストレス感受性の制御機構を、分子複合体階層に着眼した分子-分子複合体-細胞-行動の多階層アプローチにより明らかにし、ストレス性精神疾患の構成的理解につなげる。
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