本研究では睡眠に注目し、社会的ストレス抵抗性に関して各階層を超えた構成的な理解を目指している。前年度までに、社会的ストレスを経験したマウスと、対照マウスとで、他個体と出会った際の脳の反応に違いがあることが抗c-Fos免疫染色から明らかとなった。さらに、反応に違いの見られた脳部位の中には、睡眠の人為的な操作によっても活性化する部位が含まれていた。こうした脳部位は、睡眠が社会的ストレス抵抗性に作用するのに関与する脳部位の候補であると期待される。そこで、これらの脳部位に注目し、マウスの社会性相互作用に関わるかを検証した。そのために、当該脳部位に、アデノ随伴ウイルスベクターを導入して光遺伝学的手法で操作して神経活動を増加または減少させた場合、あるいは破壊した場合に社会性相互作用試験への影響を検討した。この結果、睡眠中に活性化する脳部位の中から、遺伝学的な破壊によって、社会性相互作用に影響が生じる脳部位が同定された。社会的ストレスがもたらす睡眠構築の変化や、それによる当該部位の活動の変化が、社会性の変化をもたらしている可能性が考えられる。一方、活動操作により、社会的ストレスがもたらす社会性相互作用低下には影響しないものの、社会的ストレスがもたらす身体的な変化に影響する脳部位も同定された。社会的ストレスがもたらす睡眠構築の変化や、それによる当該部位の活動の変化が、うつ病などにもみられる身体症状をもたらしている可能性が考えられる。
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