公募研究
うつ病の症状は意欲低下や睡眠障害、無快楽症など多岐にわたり、多様なうつ病症状の背景には個別の神経回路の失調が関与している可能性が高い。本研究課題の目的は、モノアミン制御領域である手綱に焦点を当て「個別の手綱亜核経路の異常が多様なうつ病様症状の背景にある」という仮説を検証することである。具体的には手綱核経路を神経結合に基づいて遺伝学的手法により分類し、遺伝子発現や神経回路の操作・行動解析を通して手綱亜核経路と多様なうつ病病態との因果関係を調べる。2021年度は、内側手綱を標的として、Brn3a-IRES-Flp; Rosa-CAG-FL-EGFP-TeNT系統が亜核特異的な遺伝子改変を可能にするかを調べた。逆行性アデノ随伴ウイルスを用いた内側ー手綱脚間核経路の標識に成功し、テタヌス毒素によるシナプスタンパク質Vamp2の減少を確認した。また、この神経回路操作により新規環境における自発活動の減少を観察しており、本研究アプローチの妥当性を示唆する結果を得た。2021年度には細胞の遺伝子特性に基づいた神経回路の操作から行動レベルの解析へと多階層にわたる本研究について班会議で発表し、マルチスケール研究により精神疾患の構成的理解について議論した。また、うつ病様行動異常を示すマウスのセロトニン神経細胞および細胞外セロトニンの動態を明らかにしBrain Communicationsへ、遺伝子改変の影響を行動解析により効果的に調べるため独自のホームケージ活動測定機器を開発しeNeuroへそれぞれ論文発表した。
2: おおむね順調に進展している
2021年度は、手綱核特異的にFlpを発現するBrn3a:IRES-Flpマウスにより手綱特異性を、Creを発現する逆行性感染ウイルスベクターにより遠心性投射路をそれぞれ特定し、神経結合が規定する手綱核経路の部分集合(亜核経路)の神経伝達を遮断することを計画していた。内側手綱ー脚間核経路を標的としてこの問題に取り組み、神経伝達に必要なVamp2タンパク質の発現減少を確認し、行動レベルでの影響も確認したことから、2021年度の研究の進捗が概ね順調であったといえる。
2022年度は、2021年度に内側手綱ー脚間核経路で妥当性評価を行った実験系を発展させ、外側手綱を中心とした経路の標識および機能解析を行う予定である。具体的には、外側手綱が投射する黒質・腹側被蓋野、背側・正中縫線核、Gudden被蓋核、吻内側被蓋核等の領域を標的として逆行性アデノ随伴ウイルスを注入したBrn3a-IRES-Flp; Rosa-CAG-FL-EGFP-TeNTマウス系統を作成し、共通したマウス行動解析バッテリによりうつ病関連行動を調べる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Journal of Ethnopharmacology
巻: 284 ページ: 114763~114763
10.1016/j.jep.2021.114763
Brain Communications
巻: 3 ページ: 1-15
10.1093/braincomms/fcab285
Journal of Neurophysiology
巻: 126 ページ: 1934~1942
10.1152/jn.00343.2021
eneuro
巻: 8 ページ: 1-9
10.1523/ENEURO.0260-21.2021
Shock
巻: 56 ページ: 142-149
10.1097/SHK.0000000000001703
neurobio.hiroshima-u.ac.jp