昨年度までに手綱核の遺伝学的操作を可能にするBrn3a-IRES-Flp系統を確立し、内側手綱回路の神経回路操作法を検証した。今年度は、これらの研究成果を発展させ、哺乳類で発達している外側手綱回路の遺伝学的標識を行った。以下の2つのアプローチを検討した。1)Brn3a-IRES-Flp; Rosa-CAG-FL-EGFP-TeNT系統を用いた神経伝達遮断実験。外側手綱の投射する、正中縫線核へ逆行性ウイルスベクターAAVrg-EF1a-mCherry-Creを注入し、外側手綱特異的な遺伝子操作を可能にした。現在、ウイルス感染動物の行動解析を行なっている。2)Brn3a-IRES-Flp単独系統の正中縫線核へ、新規に開発されたAAVrg-Syn-fDIO-hM3D-mCherryを注入したが、上記同様のウイルス液濃度では逆行性感染の効率が低く、ごく少数の細胞のみを標識した。現在、ウイルス感染効率の最適化を行なっている。 一方で、対象群に対して行ったhM3Dを発現する順行性ウイルスベクターは手綱の亜領域に対して、非特異的ではあるが、高い感染効率を示していた。このhM3Dを発現する手綱核細胞をリガンドであるClozapine-N-oxideで活性化させたところ、マウスのホームケージ活動の一時低下がみられた。さらに、これらのマウスの手綱組織における遺伝子発現解析を行ったところ、interleukine-1bなどの向炎症性サイトカインの発現がみられた。これらの結果は、化学遺伝学プローブhM3Dにより活性化した神経細胞が何らかの機構により手綱局所の神経炎症を惹起したことを示唆している。また、神経炎症がうつ病様の行動異常に与える影響をマウスで調べ、国際学術雑誌Shockに発表した。
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