研究領域 | マルチスケール精神病態の構成的理解 |
研究課題/領域番号 |
21H00209
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
水関 健司 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80344448)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 恐怖条件付け / 海馬 / 扁桃体 / 前頭前野 / セル・アセンブリ / 同期活動 / sharp-wave ripples / オシレーション |
研究実績の概要 |
本研究は、恐怖記憶の獲得・固定・想起・消去の一連の過程に関わる神経ネットワークの時間的・空間的ダイナミクスを明らかにすることを目標とした。まず、恐怖条件づけ課題を用いて、この記憶に関与することが既に分かっている海馬・扁桃体・前頭前野の3つの脳領域から同時に多数の神経細胞の活動を記録する多領域同時・大規模電気生理学記録を、課題中ならびにその前後の睡眠中に連続して行った。その結果、扁桃体と前頭前野では、経験(音と嫌悪刺激の連合学習)の前から存在するセル・アセンブリ(同期して活動する細胞集団)が記憶を担うことが示唆された。次に、各脳領域のセル・アセンブリがどのように相互作用するかを調べた。その結果、経験後のノンレム睡眠中と記憶の想起時に、扁桃体-前頭前野および海馬-前頭前野の間でセル・アセンブリが同時に活性化されることを見出した。さらに、セル・アセンブリの領域横断的な共活動は、海馬のsharp-wave ripples、扁桃体のhigh frequency oscillations, 前頭前野のcortical ripplesなどの高周波数のネットワークオシレーションが見られる時に起こることを明らかにした。本研究の結果は、高周波数オシレーション時に記憶情報を表現するセル・アセンブリが脳領域横断的に同期活動することが記憶の固定と想起を促進している可能性を示唆している。本研究の成果は、心的外傷後ストレス障害の治療法の開発の基盤となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
恐怖条件付け課題遂行中のラットの扁桃体・海馬・前頭前野から多数の神経細胞の活動を同時に記録し、数理学的に解析した。その結果、記憶獲得時に活動したセル・アセンブリが、その後の睡眠中並びに記憶想起時に、高周波数オシレーションに伴って領域横断的に同期活動することを見出した。また、同期活動に関わるアンサンブルは扁桃体と前頭前野では記憶獲得前から存在していた。これらの結果は、様々な脳領域でセル・アセンブリが持つ情報を統合するネットワークが経験依存的に発達することで新たな記憶が形成されることを示唆している。これらの結果を論文にして発表することができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに得られた実験データを数理学的に解析し、恐怖記憶の消去時に、扁桃体・腹側海馬・前頭前野の各脳領域ならびに領域横断的に、どのような神経活動が見られるのかを明らかにする。特に、恐怖記憶の固定時や想起時と比較し、恐怖記憶の消去に特異的な神経活動やネットワークオシレーションの有無を調査する。 背側の海馬では、行動中に個々の神経細胞の発火頻度が上昇するが、睡眠中に減少することで、神経細胞の興奮性のホメオスタシスを保っていることが知られる。しかし背側海馬以外でそのようなホメオスタシスが存在するのか、もし存在していたら記憶の獲得・固定・想起・消去にどのように関わるのかを、昨年度までに得られた実験データを使って明らかにする。 以上の研究から、恐怖記憶の獲得・固定・想起・消去の基盤となる神経ネットワークの時間的・空間的ダイナミクスを明らかにすることを目指す。
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