恐怖条件付けによる恐怖記憶は、心的外傷後ストレス障害のモデルとして研究され、扁桃体・前頭前野・腹側海馬などの領域が関わることが明らかとなった。しかし、どのような脳領域間・神経細胞間のネットワークダイナミクスが恐怖記憶の獲得・固定・想起・消去の一連の過程に関わるのかは未だに不明である。本研究は多脳領域同時・大規模電気生理学計測を開発し、恐怖記憶の形成前から消去後まで連続して、扁桃体・前頭前野・腹側海馬からそれぞれ約100個の神経細胞の活動を記録した。得られたデータを数理的に解析し、記憶の形成時や想起時に、恐怖を表現する神経細胞群を同定した。次に、それらの細胞群が記憶の定着に重要な睡眠時にどのように活動するかを調べた。その結果、海馬・扁桃体・前頭前野において、多くの細胞がレム睡眠中またはノンレム睡眠中に有意に活動が亢進すること、レム睡眠中に活動が亢進する細胞とノンレム睡眠中に活動が亢進する細胞では、記憶の形成時と想起時の反応や、海馬・扁桃体・前頭前野における高周波の脳波による活動の変調に有意な差があることを見出した。これらの成果は、記憶の定着に重要な睡眠中の活動と記憶情報の表現様式との相関を示唆するものである。
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