本研究は、眼球運動を行うマカクサルを用いて、ストレス下の認知・行動変容のメカニズムを、拡張扁桃体→大脳基底核相互関係とそれらのセロトニン制御の変化として明らかにする。しばしば観察される衝動性や嫌悪刺激への過剰な反応は、情動情報処理を担う扁桃体から、意思決定の神経基盤である大脳基底核への回路とそれらのセロトニンによる修飾の変容による脱抑制機能の破綻の結果である可能性を検討することを目的とした。 マカクサルが嫌悪刺激を予測しつつ選択を行う眼球運動課題を遂行中、背側縫線核の一部の細胞群(具体的には、パブロフ型条件付け課題で報酬刺激より嫌悪刺激により強く反応する細胞群)の神経活動が、ストレス下でも正しい選択行動を行う場合により強くなることを明らかにした。この現象は課題の視覚刺激呈示時だけでなく、試行間であっても観察される。すなわち、まだその試行の開始前から次の試行の行動を予測可能である。この結果を2022年は神経科学会シンポジウムにて発表できた。 光遺伝学的操作については、サル2頭について、TPH2 GFP共染色の確認をウイルスベクター注入部位(背測縫線核)および投射先(黒質網様部・緻密部、腹側被蓋野)について解析してきた。さらに非特異的染色の可能性をさらに除外するため、ベクターを用いていないコントロールとしてのカニクイサル脳の染色も行った。光刺激により背測縫線核刺激と黒質緻密部や腹側被蓋野については、行動促進をもたらすこと、その効果は小報酬を予測している場合に見られる、すなわちコンテキスト依存的であることが明らかにできた。ただし、セロトニン特異性は十分とは言えなかった。少なくとも背測縫線核ー黒質投射が嫌悪状況におけるレジリエンスに重要であることを明らかにできた。
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