研究領域 | マルチスケール精神病態の構成的理解 |
研究課題/領域番号 |
21H00220
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
長井 淳 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (60892586)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グリア / アストロサイト / 神経 / 行動 |
研究実績の概要 |
高度情報化・複雑化する現代社会において、ストレスがうつ様行動など動物行動の変容を引き起こすメカニズムの解明は重要な生物学的課題である。ストレスに応答して脳内で上昇するノルアドレナリンなどの神経修飾因子は、神経細胞への影響が広く研究されているが、グリア細胞の一種であるアストロサイトに対しても作用する。しかし、神経修飾因子が引き起こすアストロサイトGPCRシグナルの詳細な機能については未解明な点が多く残されている。本研究課題は、精神病態とアストロサイトの間に存在しうる直接的な因果関係について理解するため、まずはマウスの脳においてアストロサイトのGPCRシグナルを増強・低減することによってこのシグナルの回路・行動レベルの影響を解析することを目的としている。初年度は、この目的を達成するためにウイルス遺伝工学やカルシウムイメージング法を基軸に、アストロサイト特異的Gq共役型GPCRシグナリングの遮断法を開発した。(1)beta-adrenergic receptor kinaseのrgs様ドメインペプチド(ibARK)はHEK細胞およびアストロサイトでGq-GPCR下流のカルシウムシグナルを特異的に遮断することを確認した。(2)成体マウス視覚野で ibARKを発現したアストロサイトでは、対照群で観察されるマウス驚愕反応由来のGq共役型ノルアドレナリン受容体下流カルシウムシグナルを示さなかった。(3)全脳アストロサイトでibARKを発現させた成体マウスは、驚愕反応馴化を示さなかった。以上の3点から、アストロサイトGqシグナルは環境適応に必要である可能性を示唆した。これらの知見は、ibARKによるアストロサイトGq-GPCRシグナル低減をin vitro及びin vivo電気生理学、神経行動学と組み合わせることにより、次年度以降に行う行動生理学・病理学的解析の重要な基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究室立ち上げの初年度において、アストロサイトGqシグナル特異的な遮断法を利用可能な状態とした。急性スライスおよびin vivoのイメージングや行動試験の構築にも着手しているため、本年度の進捗としては十分であったと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、初年度に構築したibARKによるアストロサイトGPCRシグナル遮断法を駆使することによって、前頭前皮質アストロサイトカルシウムシグナルのGq-GPCR依存性と、その機能を生理学的に解析する。さらに、その操作がマウス適応行動に及ぼす影響を評価する。以上のように、研究代表者らが開発した新技術を用いて、アストロサイトが担う適応行動・不適応行動メカニズムの一端を明らかにし、精神病態とアストロサイトの因果関係について解析することを目的として、実験を進める。
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