高度情報化・複雑化する現代社会において、ストレスがうつ様行動など動物行動の変容を引き起こすメカニズムの解明は重要な生物学的課題である。ストレスに応答して脳内で上昇するノルアドレナリンなどの神経修飾因子は、神経細胞への影響が広く研究されているが、グリア細胞の一種であるアストロサイトに対しても作用する。しかし、神経修飾因子が引き起こすアストロサイトGPCRシグナルの詳細な機能については未解明な点が多く残されている。本研究課題は、認知柔軟性の欠落に代表される精神病態とアストロサイトの間に存在しうる直接的な因果関係について理解するため、まずはマウスの脳においてアストロサイトのGPCRシグナルを増強・低減することによってこのシグナルの回路・行動レベルの影響を解析することを目的とした。二年度目における今年度は、この目的を達成するためにウイルス遺伝工学やカルシウムイメージング法を基軸に、アストロサイト特異的Gq共役型GPCRシグナリングの賦活化及び遮断を用いて、認知柔軟性を評価し、そのメカニズムに迫った。主に、(1)認知柔軟性が失われたマウスでは前頭皮質アストロサイトGq-GPCRのリガンド濃度を低下さえること、(2)前頭皮質アストロサイト特異的なGq-GPCRシグナリング操作は認知柔軟性を損なわせること、(3)Gq-GPCRシグナル操作前後のアストロサイトの発現分子を網羅的に解析した結果、多数の遺伝子発現変化が観察されたことを発見した。以上の3点から、アストロサイトGqシグナルは認知柔軟性に必要である可能性を示唆した。
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