哺乳類のオス個体では、胎児期の精巣から男性ホルモンが分泌され外生殖器や脳のオス化が進行する。その後男性ホルモンの産生量はいったん低下し、思春期に至ると再び大量の男性ホルモンが産生されて全身の組織に作用し、生殖能力が成熟する。最近、胎児期と思春期以降に加えて、新生児期にも一過性の下垂体ゴナドトロピンと男性ホルモンの産生上昇が報告され、思春期(puberty)に対してmini pubertyと呼ばれている。我々は、下垂体ゴナドトロピン産生細胞の分化に必須なNr5a1遺伝子の下垂体特異的制御領域をゲノム編集によって欠損させ、mini pubertyを阻害したマウス(ΔPEマウス)を作出した。このマウスでは、胎児期のオス化は正常であったが、成熟個体では血中ゴナドトロピン濃度が有意に低下し、オスの生殖器官が十分に発達せず不妊であった。ΔPEマウス用いて、mini pubertyが男性の生殖機能の成熟に及ぼす影響を、外生殖器の形態と精子形成の2つの観点から解析した。ΔPEマウスの成熟オス個体では陰茎海綿体の発達が悪く、陰茎が小さかった。陰茎のサイズの差は出生後2週間で認められたことから、mini pubertyが外生殖器の発達に影響を与えていると推測された。一方、mini pubertyが精子形成に及ぼす影響を明らかにするために、出生後10日目の精巣を用いて、SOX9抗体とTRA98抗体による二重免疫染色を行なったが、ΔPEマウスで明らかな異常を認めなかった。今後の課題として、新生仔期における下垂体ホルモンと男性ホルモンの産生量を詳細に解析する必要がある。外生殖器の形成に対する影響は明瞭である一方、精子形成に対する影響は形態学的な差異として検出できなかったため、今後は新生仔精巣の単一細胞解析を行い、遺伝子発現レベルで解析を行う予定である。
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