研究領域 | 配偶子インテグリティの構築 |
研究課題/領域番号 |
21H00236
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
齋藤 都暁 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 教授 (30423396)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生殖細胞 / 培養細胞株 / ショウジョウバエ / 薬剤耐性遺伝子 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ卵巣の生殖幹細胞(GSC)はegg chamberと呼ばれる筒状の構造体の先端部にあり、周囲に存在するニッチ細胞からその増殖を制御されている。これまでショウジョウバエの遺伝学的解析からGSC/ニッチ間の分化シグナルやGSCの自己複製的分裂制御の遺伝的基盤が明らかとなっているが、様々な細胞種が存在するegg chamber内では、GSC/ニッチ細胞間の相互作用や、分泌される因子の役割を定量的に解析するのは非常に困難であった。本研究はGSC/ニッチ細胞間の相互作用研究を促進するため、GSC由来の培養細胞を確立することを目的とし、初年度は培養細胞株の基となるショウジョウバエ個体の作製を行った。蛍光マーカーとして、EGFPとtdTomato、薬剤耐性遺伝子として、BlasticidinとPuromycinをそれぞれVasa遺伝子、もしくはTj遺伝子下流に挿入したノックイン系統群の確立を行い、成功した。tdTomatoおよびPuromycin耐性遺伝子を挿入した系統が生殖細胞の視認性が高く、個体への毒性も少ないことが分かった。今回作製したVasa-tdTomato-Puro系統を用いて胚由来始原生殖細胞のin vitro培養を試みた。数日は安定してPGC様細胞が増えるもののその後は細胞死が起こることが判明した。胚、幼虫、成虫からそれぞれ単離、培養も試みたが、コンタミネーション頻度、単離しやすさ、視認性、培養の継続性から、それぞれ一長一短があり、今後の継続課題とした。このように本研究は、当初の予定通り出発材料の確立が果たされたことから、今後細胞株樹立に向けて培養条件の詳細を検討する段階に入ったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロバストなGSC細胞株の樹立に向けて、以下の4点の計画を2021年度に策定していた。(1)GSCの可視化と薬剤耐性遺伝子の活用、(2)OSCの増殖停止条件の検討、(3)Vasa-EGFP-BLASTを用いたGSCの単離と培養、(4)ロバストなGSCの増殖が認められる時期および個体の検討。(1)について計画通りに進行し、蛍光マーカーとして、EGFPとtdTomato、薬剤耐性遺伝子として、BlasticidinとPuromycinをそれぞれVasa遺伝子、もしくはTj遺伝子下流に挿入したノックイン系統群の確立を行い、成功した。tdTomatoおよびPuromycin耐性遺伝子を挿入した系統が生殖細胞の視認性が高く、個体への毒性も少ないことが分かり、以後の解析に用いることとした。(2)については、OSCをマイトマイシンC処理し、安定に生存可能な増殖停止条件を検討した。OSCにおいてマイトマイシンCの至適濃度を検討したが、低濃度では細胞毒性はないものの細胞増殖が起こり、高濃度では細胞死が誘導された。従って、ほ乳類細胞とは異なりOSCでは、マイトマイシンC処理による安定した細胞分裂停止状態を維持することは出来ないと判断した。(3)についてはVasa-tdTomato-Puro株を用いて胚由来始原生殖細胞のin vitro培養を試みた。数日は安定してPGC様細胞が増えるもののその後は細胞死が起こることが判明した。(4)については胚、幼虫、成虫からそれぞれ単離、培養を行ったが、コンタミネーション頻度、単離しやすさ、視認性、培養の継続性から、それぞれ一長一短があり、今後の継続課題とするのが妥当と判断した。このように本研究は、当初の予定通り出発材料の確立が果たされたことから、今後細胞株樹立に向けて培養条件を検討する段階に入ったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
出発材料としてVasa-tdTomato-Puro系統を樹立し、その評価を行ったところ、tdTomatoに関してはEGFPよりも蛍光実体顕微鏡下での視認性が高く、解剖を確実に行えるという利点があることが分かった。さらに、Puromycin耐性遺伝子はBlasticidinに比較して細胞選択までの時間が短く、コンタミネーションが少ないということが分かった。したがって、この樹立系統を基に、培養細胞株を樹立するのが良いと判断している。今後は、bag of marble (bam)や、tumorous testis (tut)などの生殖幹細胞が腫瘍化するショウジョウバエ変異体との掛け合わせを行い、細胞の単離培養を開始する。どの時期の生殖細胞を用いるのが良いか検討するとともに、Fly Extractの濃度など、培養条件の検討も並行して実施する。単独のGSC培養株の樹立を理想とするが、体細胞株OSCとの共培養も行い、ニッチ細胞の有無で生殖細胞の増殖が変動するか否かも検討する。
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