研究領域 | 配偶子インテグリティの構築 |
研究課題/領域番号 |
21H00240
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
塚本 智史 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命・医学部門, 研究統括 (80510693)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵子 / 脂肪滴 / 卵巣 / マウス |
研究実績の概要 |
排卵後の卵子の細胞質には脂肪滴が含まれることが古くから知られているが、いつから、どのように合成されるのかに関する情報は非常に乏しい。本研究は卵子に含まれる脂肪滴の生理学意義を最終的に明らかにすることが目的であるが、そのためには脂肪滴の出現時期をまず正確に理解することが前提となる。本年度は、マウス卵胞の体外培養系を用いて、卵子成熟過程における脂肪滴の合成や分布状況を詳細に解析した。この目的のために、出生10日後の雌マウスの卵巣から採取した(二次)卵胞を体外培養しながら経時的に脂肪滴の出現状況を観察した。その結果、採取直後の卵胞内卵子の細胞質では脂肪滴は全く観察されないが、培養5日目頃から脂肪滴が合成され、それ以降、脂肪滴は持続的に合成され卵細胞質内に蓄積されることが分かった。この体外培養5日目から起こる脂肪滴の合成は、生体内の卵胞内卵子でも同じタイミングで観察されることから、生体内で起こる脂肪滴の合成パターンを体外培養でも再現していると考えられる。一般的に脂肪滴は小胞体上から合成されると考えられていることから、次に小胞体と脂肪滴の局在関係性について解析した。小胞体と脂肪滴のそれぞれを蛍光標識してスピニングディスク型の共焦点型蛍光顕微鏡を用いてライブセル観察を行ったところ、脂肪滴は小胞体膜のごく近傍から出現することが明らかとなった。この結果は、小胞体上で合成される初期の脂肪滴特異的なタンパク質に対する抗体を用いた免疫染色の結果でも同様であった。さらに、電子顕微鏡を用いた観察からも、卵胞培養初期に出現する脂肪滴は小胞体のごく近傍に局在していることも明らかとなった。以上の結果から、マウスの場合、体外培養5日目頃(生後15日目頃)の卵胞内卵子で脂肪滴合成が始めることが初めて証明された。一方で、脂肪滴合成を引き起こす因子やシグナリング経路については今後の検討課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪滴の出現時期によっては、もっと初期(胎児期)の卵巣から卵胞を採取して体外培養する必要があったが、幸運にも出生後の卵巣内卵胞を使った体外培養系で目的が達成できた点が順調な進捗につながっている。また、当初予定した計画すべてを遂行しており、今のところはおおむね順調に進展していると考えられる。一方で、コロナ禍で成果発表を予定していた国際学会に参加できなかったなど、一部の計画は変更せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究から、卵子の成熟過程における脂肪滴合成の出現時期が明らかとなったが、合成初期の脂肪滴を生体内でより鮮明に可視化することができれば、新たな知見がさらに得られると期待される。そこで、小胞体上で起こる初期の脂肪滴合成を蛍光標識して可視化することができるレポーターマウスの作製に取り組んでいる。予備的観察では、一部のレポーターマウスから採取した卵巣内卵胞を用いて、体外培養系よりも鮮明な脂肪滴合成状況が蛍光観察できることを確認している。今後さらに解析と最適化を進めて、生体内の卵胞内卵子で起こる脂肪滴出現や分布状況を明らかにするために活用する予定である。また、本研究では本年度取り組んだ卵子内の脂肪滴の出現時期の解析に加えて、次年度はプロテオーム解析を用いた網羅的な脂肪滴結合タンパク質の同定を計画している。卵子一個あたりに含まれるタンパク質は微量なので、千個単位の卵子を集める必要がある。効率的に研究目的を達成するために、複数の研究者が同時に卵子を扱える環境のセットアップも進めている。
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