本研究は大きく分けて①卵子形成過程における脂肪滴の出現時期の解析と②卵子に含まれる脂肪滴のプロテオーム解析の計画から成る。令和3年度には、マウス卵胞の体外培養系を用いて、脂肪滴が小胞体を足場として特定の時期から形成されることや脂肪滴の形成は体内の卵胞内卵子でも同じタイミングで生じることを明らかにした(論文投稿前)。令和4年度は、近位依存性ビオチン標識法(TurboID)を用いて成熟した卵子に含まれる脂肪滴特異的なタンパク質を包括的に同定することを目的とした。この目的のために、2千個のマウスのGV期卵子に脂肪滴局在型と比較対象として細胞質局在化型のTurboIDを顕微注入によって発現させてビオチン化を行った。精製後のビオチン化タンパク質は質量分析装置を用いて解析した。一度目の質量分析によって、脂肪滴特異的なタンパク質の同定に至ったものの検出されたタンパク質数が予想よりも少なかった。これは卵子を用いたTurboIDの前例がほとんどなく、ビオチン化の最適化が未だ不十分なことやビオチン化タンパク質を網羅的に検出するためには2千個の卵子でもタンパク質量が足りない可能性が考えられた。そこで、二度目の質量分析に向けて、少量の卵子でも効率的にビオチン化が起こる条件を最適化した。現時点で二度目の質量分析に向けて、最適化した条件のもと卵子の準備が完了した。一方、代替法として、申請者らが開発したマウスのMII期卵子からの脂肪滴単離技術を用いて、単離して集めた脂肪滴自身を用いたプロテオーム解析を進めている。現在までに複数個のタンパク質の同定に至っているが、脂肪滴関連タンパク質を包括的に同定するためにはTurboIDを用いたプロテアソーム解析の結果と併せて比較検討する必要性があるため、引き続き解析を進めていく。
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