前年度の研究では、核小体の多相構造のモデルを構築したが、パラメータのモデル値を使った定性的な解析にとどまっていた。Pre-rRNAやFBLの高分子物性値を評価した実験はまだほとんどないが、これまで行われてきた実験を参考にして可能な限りの見積もりを行った。核内のFBL濃度が比較的低いため、前年度想定していたのとは異なるレジームであることが分かった。このレジームでは、FBL-FBL相互作用パラメータを大きくすると、相転移が起こる相互作用パラメータ付近でFBLの濃度が小さな値から大きな値にジャンプし、それに伴い、FC表面のpre-rRNAが膨潤することが特徴である。このレジームについて再度数値計算と極限解析を行うことによって、1. FCの半径とDFCの厚さが同じくらいであることと、2. FCの半径が転写レートの-1/2乗に比例することを示した。結果1はこれまで行われてきた核小体の多相構造を調べる実験とコンシステントである。結果2の-1/2乗という数字は、(レジームが同じである限り)パラメータによらない普遍量であるので、理論を実験的に検証するために良く測定される量である。そこで、公募研究の山崎講師に、FCの大きさとrRNAの転写量の定量的な測定を行っていただいた。その結果、上記の結果2が実験とコンシステントであることが分かった。本研究の結果は、bioRxivにアップロードされている(doi: 10.1101/2021.09.09.459702)。
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