染色体は受精後、リプログラミングを受け、クロマチンの3次元構造も大規模に変化することが近年明らかにされつつある。しかし、発生初期胚は細胞数が少ないなどの技術的な問題から、3次元構造変化の役割やその制御メカニズムは理解が進んでいない。分化した細胞のクロマチンは一般的にTopologically Associated Domain (TAD) という、物理的、機能的に独立した領域に区画化されていることが明らかになっている。このTADは、CTCFとコヒーシンというタンパク質がクロマチンのループを形成することで確立されることが明らかになっている。 メダカの未分化細胞では転写が起きているにも関わらずクロマチンループやTADが存在せず、細胞が分化する原腸形成期にそれらの構造が出現することが明らかになっている。TADはゲノム領域間の相互作用を制限・増幅すると考えられていることから、未分化細胞と分化した細胞ではTADの有無によって遺伝子ごとの転写のしやすさ(ポテンシャル)が異なり、分化能に影響を与えていることが考えられるが、TADの転写のしやすさや分化能に対する役割は明らかになっていない。 2022年度はTADの役割を明らかにするために、複数のCTCFやコヒーシン関連因子に対してモルフォリノアンチセンスオリゴを用いた遺伝子のノックダウン実験を行い、これらのノックダウン胚においてクロマチン3次元構造を解析した。 その結果、TADが減弱あるいは増強するノックダウン胚がそれぞれ複数得られた。特に、いくつかの因子については、これまで知られていなかったTADへの寄与の仕方が示唆された。今後トランスクリプトームのデータと比較することでTADの役割を解析する。
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