4Dゲノムアーキテクチャ、すなわちゲノム規模のクロマチン立体構造とその動態は、DNA機能に決定的な影響を与えるため、細胞生物学の中心課題のひとつとして注目されてきた。その解析の重要な手段として、ゲノム立体構造をシミュレートする動力学計算モデルの開発が強く望まれてきたが、これまでの計算モデルはゲノム構造の安定さを説明できず、有効なモデルは未開発であった。研究代表者は前回の本領域公募研究に参加し、クロマチンの局所物性に応じた不均一斥力に着目することでこの困難を克服できることを示した。すなわち、クロマチン領域間の斥力を原因とする特徴的な不均一運動がクロマチン相分離を誘起し、この相分離が安定したゲノム構造をつくることを示した。本研究では、この新規モデルによってゲノム立体構造の時間変化を計算し、実験データ解析と総合して、ゲノム規模におよぶクロマチン動態と転写活性の関係に迫る研究を行った。2022年度は2021年度の成果に基づき、以下の研究を行った。
(1) 2021年度に開発したゲノム立体構造計算モデルによるクロマチン動的ドメインの運動と構造を統計的に解析する方法をさらに整備し、2022年度に開発した高解像度のクロマチン計算モデルと比較して、動的ドメイン描像の妥当性を検証した。 (2) 遺伝研の前島グループと協力し、2021年度に開発した分布取得解析法を適用して、様々な条件における生細胞のゲノム規模におよぶ1分子ヌクレオソーム運動データを系統的に解析し、計算モデルの結果と比較対照することによって動的ドメイン描像の検証を行った。 (3) 2022年度に開発した高解像度のクロマチン計算モデルと、2021年度に開発したゲノム立体構造計算モデルを組み合わせて、転写装置形成によって生じるクロマチン運動束縛のゲノム動態への効果を解析して検証した。
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