研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
21H00253
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山崎 智弘 大阪大学, 生命機能研究科, 特任講師 (90732280)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相分離 / NEAT1 / パラスペックル / ゲノム制御 / RNA / lncRNA / ブロック共重合体 / ミセル化 |
研究実績の概要 |
細胞核内には、液液相分離などの機構により形成される非膜性構造体が多数存在している。そのほとんどのものには、RNAが構成因子として含まれているが、その構造体の形成および機能における役割は十分には理解されていない。本研究は、RNAが誘導する核内非膜オルガネラに焦点を当て、その遺伝子発現・クロマチン制御における機能発現メカニズムを理解することを目的としている。NEAT1_2 lncRNAが構築する核内非膜性構造体であるパラスペックルをモデル系として扱うとともに、申請者が新たに構築した人工RNA相分離構造体誘導系を利用し、RNAによる核内相分離に共通する機能発現機能を明らかにする。さらに、ソフトマター物理学の理論解析も取り入れ、RNA誘導性相分離の形成とクロマチン・遺伝子発現制御機能を包括的に理解するための原理および分子基盤を明らかにする。 これまでに、実験による解析とソフトマター物理理論を融合した研究により、パラスペックルがブロック共重合体のミセル化という細胞内相分離の原理として、多くの研究がなされている液液相分離とは異なる機構により形成されていることを明らかにした(Yamazaki et al., EMBO J 2021, 40, e107270)。さらに、パラスペックルのミセル化に関わるタンパク質因子の同定も進んでいる。こうした解析から、RNA-タンパク質複合体がブロック共重合体として働くという普遍的なメカニズムを明らかにしてきている。 また、人工構造体を用いた解析から、パラスペックルや様々な細胞内構造体の構成因子としても同定されている、DBHSファミリータンパク質やFETファミリータンパク質が形成する構造体とその形成メカニズムの解析を進めており、今後の構造体の組成や機能の解析に向けた実験を計画通り進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パラスペックルがブロック共重合体ミセルとして働き、最適な大きさ、内部構造、形態をとることをソフトマター物理理論との融合研究により明らかにし、論文として公表した(Yamazaki et al., EMBO J 2021, 40, e107270)。これは、新規の細胞内相分離の形式であり、RNA-タンパク質複合体が、ブロック共重合体として働き、高分子ミセルを形成するという普遍的なメカニズムを明らかにした成果である。さらに、この理論から予測されたシェルを規定するタンパク質についても同定が進みつつあり、それをさらに解析することで、ミセル化の分子基盤を明らかにすることができる見通しがついてきた。加えて、人工RNA構造体実験系を用いて、様々なRNA結合タンパク質を繋留することで、構造体を誘導できることがわかり、細胞内相分離におけるハブとなるタンパク質の同定が進んできた。こうしたタンパク質の変異体解析を通じて構造体形成の核となるメカニズムの解析も進んでいる。加えて、今後の解析に必要となるツールの作成も進んでいることなどから、実験は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の点に関して解析を進める。パラスペックルの形成機構について、RNAとRNA結合タンパク質の側から、それらがどのように遺伝子発現やクロマチン制御に機能するかについて解析を進める。特に、パラスペックルによる遺伝子発現制御機構と人工構造体実験系において、RNAポリメラーゼIIとの関連に焦点を当てる。さらに、ミセル化に寄与するタンパク質のドメイン解析などを通じて、どのようにRNAの新たな働き方としてのミセル化の分子基盤を明らかにし、細胞内相分離の新たな形態であるミセル化の分子基盤を解明する。
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