研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
21H00259
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩崎 由香 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (80612647)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クロマチン / 非コードRNA / トランスポゾン / エンハンサー / インシュレーター / テロメア / サブテロメア / ゲノム高次構造 |
研究実績の概要 |
真核生物ゲノムの大きな割合を占めるトランスポゾンは、非コード小分子RNAであるpiRNAをはじめとした様々な転写制御機構の制御対象となることで、機能ドメイン様に働きクロマチンポテンシャルに大きな影響を及ぼすことが考えられる。本研究では、piRNAによる制御をはじめとした様々なトランスポゾンの制御機構が誘導するクロマチン状態と遺伝子発現の変化、並びにこれを制御する分子機構を理解する。本年度は、piRNAによる標的トランスポゾンの制御が核ラミナ相互作用ドメインやゲノム三次元構造の変動を伴うダイナミックな核内構造の変化であるという研究成果を論文や学会発表にて発表した(Iwasaki et al., EMBOJ 2021)。これに加え、ショウジョウバエのテロメアを構成するトランスポゾンがどのように制御されているか、新たな制御機構を明らかにした。具体的には、インシュレーターであるMod(mdg4)の機能未知スプライスバリアント(Mod(mdg4)-N)がエンハンサーブロッキング活性をもってテロメアを構成するトランスポゾンであるHet-Aの発現を抑制していることを見出した。Mod(mdg4)-Nバリアントは、サブテロメア領域のHETRPに結合し、サブテロメア領域中のエンハンサーを抑制することで、下流のHet-Aの発現を抑える働きがあることが新たに示唆された。このことから、テロメア構成トランスポゾンの新たな制御機構の同定を通して、ゲノム中のクロマチンポテンシャルを規定する新たな制御メカニズムを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、前年度より引き続き、小分子RNAであるpiRNAによるトランスポゾンの制御の全体像を明らかにした。さらにこの成果を論文として発表することができた(Iwasaki et al., EMBOJ 2021)。また、新たなトランスポゾン制御機構として、サブテロメア領域におけるインシュレーターの機能未知スプライスバリアントの働きを明らかにした。これは、エンハンサーとプロモーター間の相互作用をサブテロメア領域に結合するインシュレータースプライスバリアントが制御することによる制御であることを示唆するデータが得られている。これらに加えて、ロングリードシーケンスデータを用いたトランスポゾンの挿入位置の正確な同定も順調に進んでいることから、本研究はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、新たに同定することができたテロメア構成トランスポゾンの制御機構に関する知見を論文や学会で発表すると同時に、この制御機構がテロメア以外のゲノム領域でどのように機能するかを明らかにすることを目指す。さらに、本解析を行う過程で、比較的少ないリード量で高いレゾリューションでゲノム高次構造を検出できるMicroC法を用いた。この解析結果から、ループを含む詳細なゲノム構造を同定することができ、これまでのHiC法では同定できなかった構造まで同定することができた。これらのゲノム構造とトランスポゾンとの関係性に着目して解析を進めることで、トランスポゾンとゲノム構造との関係性の理解を目指す。
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