研究実績の概要 |
本研究では、トランスポゾンをはじめとした非コードゲノム領域が、非コードRNAやインシュレーターによる制御を受けて、ゲノム構造と遺伝子発現をどのように形作るかについての新たな知見を得た。PIWI-interacting RNA(piRNA)は、生殖組織特異的にトランスポゾンを抑制することでゲノムの安定性を維持する非コードRNAである。ショウジョウバエpiRNAは、Piwiタンパク質と結合し、ヘテロクロマチン形成を通じて標的トランスポゾンの転写を抑制することが知られている。Piwiが標的抑制の際に新生RNA上で形成する複合体を新たに同定し、これをPPNp複合体と名付けた(Murano and *Iwasaki et al., EMBOJ, 2019)。この複合体が、ゲノムの核内構造の多層的な変化を誘導することでトランスポゾンの発現を抑制していることを明らかにした(*Iwasaki et al., EMBOJ, 2021)。さらに、PPNp複合体をレポーター上に係留することでヘテロクロマチン構造が段階的に形成される様子を時系列的に理解した。生殖組織でpiRNAがトランスポゾン抑制に重要な役割を果たす一方で、体細胞におけるトランスポゾンの制御については不明な部分が大きい。本研究では、卵巣体細胞において、Mod(mdg4)の機能未知スプライスバリアントが、サブテロメア領域のエンハンサーを抑制してテロメア構成トランスポゾンHeT-Aの発現を抑制していることを明らかにした(Takeuchi et al. (*Iwasaki), NAR, 2022)。この制御機構は、ショウジョウバエテロメア配列の安定性の維持に重要な役割を果たしている。
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