研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
21H00263
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
毛利 一成 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (00567513)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | FCS / STED |
研究実績の概要 |
核小体をはじめとした核質内に存在する細胞膜が存在しない微小器官は古くから知られるが、微小器官の大きさは光学限界である200~300ナノメートルと同程度である。共焦点顕微鏡の観察ではz方向の分解能はマイクロメートルオーダーとなるため、核内微小構造内の分子動態の観察は困難であり、その形成機構や機能は計測の限界から不明な点が多い。我々は自ら開発したFCS手法により、オートファジーの前駆体であるPASが相分離により形成される液滴であることを証明した。この実験系をストレス顆粒内外を拡散するRNA結合タンパクなどに適用することで、細胞内小器官の内外を通過する分子の拡散係数を同時に推定することのできるFCS手法を開発した。これによりストレス顆粒の構成分子が、特定の分子をその状態に依存して内部へとリクルートする仕組みを明らかにした。上記多点FCS法を発展させるため、STEDを用いたPSFの操作技術をFCSに取り入れ、分子拡散の特徴をより詳細に明らかにする手法の開発をを進めている。STED-FCSが実現していることを検証するため、まずDNAや核膜孔タンパクの蛍光標識を行いSTED分解能の確認を行い、STEDによりPSFの変化が生じることを確認した。さらにFCS信号がSTED光の影響を受けるていることを検証するため、自己相関関数のSTED光依存性を調べた。これらの予備的結果をもとに、今後はヘテロクロマチンやユークロマチン領域におけるヒストンの分子動態など、領域依存的な分子の特徴を明らかにする。分子の拡散の性質を詳細に明らかにするために、STED-FCSによるPSFサイズ-滞在時間の関係性を精度よく推定する手法を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核内微小構造におけるSTED-FCSを実現するためには、これまでに開発したFCS法と比較可能な基準となる対象での計測が必須であった。このため誘導条件が確立し構成分子の明確なストレス顆粒(SG)と呼ばれる膜の無いオルガネラを対象とした。SG形成にはmRNAの翻訳停止機構を担うRNA結合タンパクG3BP1や、ユビキチンプロテアーゼUSP10などが構成分子として知られ、これら分子のSG内外における拡散係数を同時に多点FCS計測可能であることが示唆された。本手法によりSGに特定の性質を持つ分子をリクルートする分子レベルの仕組みの解明が可能となることを示唆する結果を得た。STED顕微鏡とFCSの共存は従来特別な装置が必要であった。これまでに構築したFCS法は既存STED顕微鏡の計測条件の変更で実現できるため、STED-FCSを容易に実現できる。これまでに、DNA染色試薬SiR-Hoechstや核膜孔タンパクNup153などでSTEDの精度を検証しつつFCS計測モードへの移行を行い、得られた信号の画像解析により生細胞内における分子の拡散係数を推定できることがわかった。STEDにおいてPSFがレーザー強度に依存して狭くなるため、FCSの信号検出領域も狭まり、自己相関関数の計算において見かけの相関時間が短くなると予想された。このことを実験的に検証することで実際にSTED-FCSが実現していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
核内微小構造には核小体のほかDNA量の多いヘテロクロマチン領域と少ないユークロマチン領域など、遺伝子発現状態に依存した構造の異なる領域が存在している。ヒストンはDNAに結合し、ヌクレオソーム構造の維持に貢献しているが、このヒストン動態が遺伝子発現状態に依存して異なっていると考えられている。従来ヒストンの動態は全反射顕微鏡によりミリ秒オーダーの計測で推定されてきたため、DNAに結合した状態のゆっくりした運動を捉えてきたが、FCSではマイクロ秒オーダーの計測ができるため、DNAへの結合解離を含むヒストンのより速い運動を捉えることが可能と考えられる。本FCS法によりこれまでに未解明のヒストン動態を、ユークロマチン・ヘテロクロマチン領域で捉えることで、遺伝子発現状態に依存した高速な分子動態の違いを明らかにする。STEDレーザーの誘導放出によるPSFの縮小は、FCSにおいてPSFを通過する分子の平均的な滞在時間が短縮される。PSF領域サイズと滞在時間の関係は、全反射顕微鏡における輝点追跡を用いた場合の平均二乗変位に相当するものと考えられる。STED-FCSによるPSFサイズ-滞在時間の関係性から分子の運動の特徴が明らかとなる可能性があり、本研究で3次元運動する分子の拡散の性質を解明する手法を開発する。
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