核小体をはじめとした核質内に存在する細胞膜が存在しない微小器官は古くから知られるが、その形成機構は計測の限界から不明な点が多い。特に近年、転写活性の場やヘテロクロマチンが相分離により形成される可能性が示唆されてきたが、そのサイズは光学限界より小さい場合も多く、分子同士の強い結合により架橋された構造物か、高分子同士の弱い結合により流動性が維持された相分離液滴か決定的な証拠を見出すことは困難であった。現在の多くの核内分子動態のライブイメージングは全反射顕微鏡によるヒストン1分子計測が行われ、時間分解能100ミリ秒程度が主流となっている。このため、本来の3次元を2次元平面に投影した分子運動を観察し、その平均自乗変位(MSD)を計算することで拡散係数などの分子動態が推定されてきた。従って、より速く3次元空間を行き交う分子の運動は未知であった。本研究の基礎となるFCSではレーザーを1点に集光させ、点像分布関数(PSF)内の通過分子の蛍光信号から自己相関を計算し、理論式から3次元の拡散係数を推定する手法だが、平均的な運動しか捉えられず、2次元MSDのような拡散の性質(拘束されているか、アクティブかなど)は抽出できなかった。本課題ではSTED顕微鏡によりSTED光の強度を変えPSFを絞ることで、様々なサイズの計測領域を通過する分子の平均的な通過時間が推定できることが分かり、サイズと時間の関係から時間分解能100μsの計測に基づく3次元MSDの計算に成功した。これをヒストンH2Bに適用することで、核内では5ミリ秒以下の領域においてDNAに拘束されたヒストンだけではなく、核内空間を自由に動き回る成分も含まれていることが明らかになった。
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