研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
21H00264
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
正井 久雄 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 所長 (40229349)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 複製タイミング / クロマチンループ / 染色体高次構造 / 核膜 / グアニン4重鎖DNA / RNA-DNAハイブリッド / 多量体形成 / 脂質結合 |
研究実績の概要 |
1)Rif1の核膜局在変異が複製、修復、転写、組換えなど種々の染色体動態におよぼす影響の解析 動物細胞Rif1のC末端が核膜局在とDNA複製タイミング制御に必要であることを見出した。また、DSB修復にもC末領域は必要である。C末領域はコイルドーコイル構造を介して多量体化し、それにより、クロマチン相互作用ドメインを形成し、複製や修復を制御する。 2)Rif1の核膜局在の機構 Rif1C末領域の変異により、Rif1は、核膜や核小体辺縁部への局在がみられなくなった。Rif1の核膜局在には、C末を介した脂質結合、及びパルミトイル化の関与が重要であることを示した。 3)Rif1のG4認識の構造的基盤の解明 これまでの結果から、Rif1は、C端とN端の2つの独立したG4結合ドメインを有し、それぞれのドメインが多量体化能も有する。N端側はHEAT-Armadilloリピート構造を形成する。C端側のG4結合ドメインの構造は不明であるが、C末は両親媒性のコイルドコイル構造を形成し、多量体化していると推定された。この構造を介して脂質と直接相互作用し、核膜近傍でクロマチンを束ねて、複製開始に抑制的なクロマチン相互作用ドメインを形成する可能性を提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)Rif1の核膜局在変異が複製、修復、転写、組換えなど種々の染色体動態におよぼす影響の解析 (1) ヒト大腸癌細胞HCT116で樹立したRif1のC末端変異体ではRif1の核膜局在が喪失。又生化学的分画で不溶性画分から遊離。 (2) Halo assayによりクロマチンループの増大が観察された。(3) HeLaS3細胞においても同様なRif1C末変異細胞株を樹立。(4) これらの細胞株でも同様にゲノムワイドの複製タイミングの変化と、Rif1の核膜からの遊離が観察された。 2)Rif1の核膜局在の機構 (1) Rif1はC末依存的にリン脂質画分に結合する(HCT116 Rif1C末変異株を用いた、脂質沈殿アッセイ)。(2) C端301aaポリペプチドも、C末依存的にリン脂質に結合する。(3) Phosphatidic acid, phosphatidyl serineがRif1に結合(リン脂質stripのoverlay実験、及びリン脂質ビーズpulldown実験)。(4) Rif1上の2箇所のパルミトイル化候補部位の変異により、N端-C端融合タンパク質のパルミトイル化が30%ほど減弱。 3)Rif1のG4認識の構造的基盤の解明 (1) SEC-MALS(size-exclusion chromatography coupled with multi-angle light scattering)による測定から分裂酵母Rif1のC末領域は4量体を形成する(九州大学の神田大輔博士と共同)。(2) native agarose gelを用いた新規G4-タンパク質複合体測定系では、C末91aaもG4と特異的に相互作用する。(3) さらに短いC末64, 44aaのポリペプチドも、この測定系でG4と相互作用したが、G4を作らない1本鎖DNAとも相互作用することから特異性を喪失していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1)Rif1の核膜局在変異が染色体動態に及ぼす影響の解析 (1)ヒトRif1C末端の変異細胞株の染色体結合をChIP-seqにより決定。(2)上記変異体で4C(Chromatin Conformation Capture)を行い、C末変異がRif1のクロマチン結合とクロマチン間相互作用に及ぼす影響を解明する。(3)分裂酵母Rif1のG4結合能、多量体形成能のそれぞれを特異的に喪失した点変異体株を用いて、複製起点活性化(BrdU-seq)、染色体結合(ChIP-seq)を行う。 2)Rif1の核膜局在の機構 (1)パルミトイル化候補部位変異体をヒト細胞で樹立し、複製タイミング、Rif1の核膜局在への影響を解析する。(2)Triton wash/DNaseI処理の後に残るRif1結合部位をChIP-seqで決定し、Rif1の不溶性、核骨格でのクロマチン結合部位を決定する。(3)細胞周期を同調した抽出液を用いて脂質結合の細胞周期制御を明らかにする。(4)Rif1の細胞周期依存的化学修飾を検出し、これが脂質結合や、核膜結合、複製抑制解除等に関与するかを検討する。(5)Rif1のパルミトイル化を触媒するZDHHC酵素を同定する。 3)Rif1のG4認識の構造的基盤の解明他 (1)Rif1とG4の複合体をX線結晶構造解析、クライオ電顕、及び高速AFMにより解析し、Rif1によるG4認識の構造的基盤とそれによるクロマチン構造形成の分子機構及び分子動態を解明する。(2)相分離を形成しないRif1C末領域の変異Rif1株を樹立し、その構造と機能を解析する。 4)細胞内G4動態の解析 (1)G4構造を検出する新規プローブを用い、細胞内のG4を検出し、その動態をRif1変異体、細胞周期、DNA損傷時で観察する(東京工大 伊藤由馬博士と共同)。(2)ChIP-seqでG4のゲノムプロファイルを決定する。
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