研究領域 | ケモテクノロジーが拓くユビキチンニューフロンティア |
研究課題/領域番号 |
21H00268
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松沢 厚 東北大学, 薬学研究科, 教授 (80345256)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ユビキチン / ユビキチン化関連酵素 / シグナル伝達分子 / ケモテクノロジー / 細胞生死バランス |
研究実績の概要 |
細胞内においてシグナル伝達分子と複数のユビキチン化関連酵素は複合体を形成し、相互の活性制御によって、細胞の生存・細胞死といったシグナルバランスが微調整されており、そのバランス崩壊が過剰な細胞死・細胞増殖による癌等の疾患に繋がる。本研究では、複合体内のシグナル分子間の相互作用にユビキチン化やSUMO化などの翻訳後修飾が必須であることを解明し、ユビキチン化関連修飾の制御が、過剰な細胞死や増殖を抑制して、細胞生死のバランス破綻が原因である癌や免疫疾患等の治療の可能性を明らかにしてきた。本研究は、ケモテクノロジーを利活用し、E3リガーゼとその基質としてのキナーゼ、およびユビキチンとそのデコーダーとしての細胞死誘導シグナル分子との相互作用を人為的に調節して、適切な生死シグナルのバランス制御による過剰な細胞死や細胞増殖を抑制し、癌や免疫疾患の創薬・治療戦略開発に結び付けることを目的としている。 今年度は、我々独自に見出した低分子ケミカルプローブがE3リガーゼとその基質で細胞死制御に関わるキナーゼとの結合や、ユビキチンデコーダーとしての細胞死誘導シグナル分子とユビキチンとの結合を調節できること、また、低分子ケミカルプローブの構造類似体の中には、ユビキチンデコーダーである細胞死誘導シグナル分子とユビキチンとの結合を調節する作用を持つものと、全く持たないものに分けられること、これらの結合を調節する作用を持つプローブはユビキチン認識ドメインに対してリン酸化修飾を誘導することなどが明らかとなり、翻訳後修飾を誘導する因子や翻訳後修飾されるドメインなどが低分子ケミカルプローブの作用点である可能性が示された。これらの分子作用機序に基づき、ケミカルプローブの作用活性向上のための構造改変・展開の可能性の追求や、最適な特性を有するケミカルプローブの選定を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 低分子ケミカルプローブがE3リガーゼやユビキチンを標的とする分子作用機序の解明 →我々独自に見出した低分子ケミカルプローブは、E3リガーゼとその基質で細胞死制御に関わるキナーゼとの結合や、あるいはユビキチンデコーダーとしての細胞死誘導シグナル分子とユビキチンとの結合を調節できることが判明した。これらのケミカルプローブの分子作用機序の解明の手掛かりとなるデータとして、低分子ケミカルプローブの構造類似体の中には、ユビキチンデコーダーである細胞死誘導シグナル分子とユビキチンとの結合を調節する作用を持つものと、全く持たないものに完全に区別されることも分かってきた。これらの結合を調節する作用を持つものは、ユビキチンを認識するドメインに対してリン酸化といった翻訳後修飾を誘導するなどの特徴を持つことから、この翻訳後修飾がシグナル分子同士の相互作用に影響を及ぼすと共に、翻訳後修飾を誘導する因子や翻訳後修飾されるドメインなどが低分子ケミカルプローブの作用点である可能性が明らかとなってきた。 (2) 活性増強を目指した低分子ケミカルプローブの構造展開と疾患治療戦略への利活用 →上記(1)の分子作用機序の解析結果に基づき、ケミカルプローブの作用活性向上のための構造改変・展開の可能性を追求した結果、ケミカルプローブの作用発現に重要な構造を特定し、最適な特性を有するケミカルプローブの選定に繋がり、さらに、それらを用いた実際の疾患治療戦略への利活用の妥当性を実証する足掛かりとすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の解析を基に、次年度も具体的に以下の点について継続して解析を進め、研究を推進する。 (1) 低分子ケミカルプローブを介した細胞死等の生理応答の分子制御機構の解明 →我々が見出した低分子ケミカルプローブは、細胞死や炎症等の生理応答を制御できる可能性が明らかとなってきた。その作用機序が細胞死等の生理応答の制御に繋がる仕組みを解明し、プローブによる癌等の疾患の制御の妥当性を検証したい。実際、これらのケミカルプローブは、細胞生死のシグナル制御分子の分解を抑制し、細胞死を調節できることを、これまでの解明してきたが、この点について引き続き詳細に検証すると共に、このプローブは強く炎症も誘導することを新たに見出しており、別の作用標的の存在も示唆しており、その生理応答の分子制御機構についても解析を行う。また、ユビキチンデコーダーとしての細胞死誘導シグナル分子とユビキチンとの結合を調節できるプローブも見出したことから、細胞死誘導シグナル分子とユビキチンとの認識にリン酸化が関与する可能性も明らかになってきた。これらの相互作用制御の分子機構についても明らかにする。 (2) ユビキチン化を標的とした低分子ケミカルプローブの癌等の疾患治療効果の評価 →(1)での低分子ケミカルプローブによる細胞死等の分子制御機構の解明に基づき、これらプローブが細胞死の誘導等を介して実際に癌抑制に働くか否かについて、in vivo癌移植モデル等で検討する。また、抗癌薬耐性の抑制効果や炎症に対する効果などを基に、癌や免疫疾患等の新たな治療戦略開発に利活用する。
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