公募研究
本研究では、これまでほとんど明らかにされてこなかった植物ホルモンを介したユビキチンバイオロジーについて、分子レベルで解析するための新規ケモテクノロジーを開発する。植物の生理現象を司る植物ホルモンの多くは、ユビキチンリガーゼ類と転写リプレッサー(およびそれらの相互作用タンパク質)とのタンパク質間相互作用を誘起する分子糊として機能する。環境ストレス等に応じて植物ホルモンが産生されるとこれらの三者複合体が形成され、転写リプレッサーがユビキチン化されてプロテアソーム経由で分解を受け、これが引き金となって転写が開始され、様々な生理応答を引き起こすとされる。これまでに我々は、植物防御応答を制御するジャスモン酸に焦点を当て、ジャスモン酸受容体であるユビキチンリガーゼCOI1と、転写リプレッサーJAZ間のタンパク質間相互作用、並びにJAZが抑制する転写因子MYCとJAZとのタンパク質間相互作用など、さまざまなタンパク質間相互作用の解析法を確立してきた。本年度は、このジャスモン酸シグナル伝達前期において、転写リプレッサーJAZのユビキチン化に伴う分解を植物体内で可視化する方法論の開発、並びにシグナル伝達後期において活性化される転写因子の活性化メカニズムについて詳細を解析し、転写メディエーターと転写因子間のタンパク質間相互作用について、相互作用ドメインの同定を行うことに成功した。またこの知見をもとに、転写因子への選択的ケミカルツール開発の足掛かりを見出した。これらの成果は、植物ホルモンシグナルにおける複雑なタンパク質間相互作用ネットワークの理解につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、植物ホルモンであるジャスモン酸のシグナル伝達前期において、転写リプレッサーのユビキチン化に伴う分解を植物体内で可視化する方法論を開発し、現在開発中のジャスモン酸受容体であるユビキチンリガーゼCOI1に対する選択的ケミカルツールを植物体内で機能解析し、構造最適化などを実施することができた。また、ジャスモン酸シグナル伝達後期において活性化される転写因子の活性化メカニズムについて詳細を解析し、転写メディエーターと転写因子間のタンパク質間相互作用について、相互作用ドメインの同定を行うことに成功した。これらの知見は、本研究課題で到達予定のユビキチンリガーゼ選択的ケミカルツール開発、並びに転写因子選択的ケミカルツール開発につながるものであり、ひいては植物ホルモンシグナルにおける複雑なタンパク質間相互作用ネットワークの理解につながることが期待される。
今後は、当初の予定通りユビキチンリガーゼ選択的ケミカルツール開発、並びに転写因子選択的ケミカルツール開発を行い、植物ホルモンの関わるユビキチンバイオロジーについて詳細を解析する。また今年度達成した、転写リプレッサーの植物体内でのユビキチン化・分解過程の可視化法を用いて、植物体内でのユビキチン化解析を行い、植物ホルモンの関連するユビキチンコード解析に繋げることを目指す。一方、ジャスモン酸シグナル伝達後期において活性制御される転写因子に対するケミカルツールについては、ジャスモン酸による転写リプログラミングの制御機構解明に繋げる。具体的には、転写因子のリプレッサーによる抑制・転写メディエーターによる活性化と不活化における複雑なタンパク質間相互作用を時空間的に制御することで、ジャスモン酸活性の切り分けや、植物防御応答の制御に繋げることを目指す。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 298 ページ: 101504~101504
10.1016/j.jbc.2021.101504
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 13612
10.1038/s41598-021-93067-1
http://www.orgchem1.chem.tohoku.ac.jp/orgchem1/Home.html