公募研究
脱ユビキチン化酵素USP8は増殖因子受容体のエンドサイトーシスに関与する。一方、USP8の遺伝子変異は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰分泌によって起こるクッシング病の原因となる。本研究では、USP8の活性の検出や操作を可能とする化学的技術(ケモテクノロジー)を開発・活用し、USP8の生理病理的な作用機構を明らかにすることを目指した。2021年度は、まず、USP8の活性制御の解析を行ない、USP8の分子中央部に自己阻害ドメインを発見し、予測構造に基づきWW-likeドメインと命名した。次に、WW-likeドメインと酵素ドメインの相互作用を測定する1分子FRETプローブを独自に開発し、両ドメインが相互作用することを実証するとともに、WW-likeドメインとユビキチンが酵素ドメインに対して競合的に相互作用することを示した。次に、このUSP8の活性制御がクッシング病を引き起こす遺伝子変異によって受ける影響を調べた、その結果、遺伝子変異によってWW-likeドメインと酵素ドメインの相互作用が減弱することがわかり、USP8の自己阻害が恒常的に解除されることによって疾患発症が起こるというメカニズムが明らかとなった。一方、USP8の新機能を解明する研究を進めるため、レンチウイルスの増殖におけるUSP8の役割を検討した。その結果、レンチウイルスに感染した宿主細胞のUSP8は、レンチウイルス構造タンパク質Gagを脱ユビキチン化し、ウイルス粒子へのウイルスRNAの動員を抑制することを発見した。その他に、USPファミリーの機能解析として、ヒトパピローマウイルスによって起こるtree-man症候群の発症分子機構におけるUSP37の役割を解明した。
1: 当初の計画以上に進展している
ケモテクノロジーを活用することによって、USP8に自己阻害機構が備わっていること、この自己阻害の異常がクッシング病の原因分子機構に含まれることを明らかにすることできた。WW-likeドメインと類似のドメインは他のUSPファミリーには存在せず、この自己阻害機構はUSP8に独自のものと考えられた。また、本成果からクッシング病の治療にはUSP8阻害剤が有効と考えられるが、現在、USP8に対する特異的な阻害剤は開発されていない。本研究をさらに進展させてWW-likeドメインと酵素ドメインの結合様式を詳細に解析することにより、USP8阻害剤を開発する分子基盤を構築できると期待できる。その他に、USP8がレンチウイルスの増殖を抑制する働きを持つことを示し、その分子機構の一部も解明することができた。このように、本研究からUSP8の活性制御や生理的病理的な作用機構の理解が飛躍的に進んでいるため、当初の計画以上に進展していると考えている。
USP8の生理的な作用機構をより詳しく理解するために、USP8の自己阻害がどのような外部刺激・生理状態に応答して解除されるか検討を進める。そして、USP8が関与する種々の細胞内イベント(増殖因子受容体のエンドサイトーシス、レンチウイルスの増殖など)の制御メカニズムの解明につなげる。また、自己阻害が解除される分子機構の詳細な解明を進める。特に、WW-likeドメインに何らかのタンパク質が結合することで自己阻害が解除される可能性が高いので、それを同定して分子機構の解明を進める。この他に、USP8や類似酵素の細胞内機能のさらなる探索とそれを可能とするケミカルツールの開発を一層進める。一方、クッシング病治療薬の開発に結びつけるための研究として、領域内の構造生物学を専門とするグループとの共同研究により、WW-likeドメインと酵素ドメインの結合様式を詳細に解析し、USP8阻害剤を開発する分子基盤を構築する。また、領域内のケミカルバイオロジーのグループと連携し、USP8活性を簡便に測定する系を構築してUSP8阻害化合物のスクリーニングを行う。ヒット化合物が得られた場合、クッシング病モデル細胞/マウスを用いた治療効果の評価を行う。
海外ネットニュース(Cushing's disease news) "Study Sheds Light on Effects of USP8 Mutations on Disease Development"https://www.titech.ac.jp/english/news/2021/062478
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10.1038/s42003-021-02802-x
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10.1016/j.cell.2021.06.004
https://komada-lab.jimdofree.com/
https://www.titech.ac.jp/english/news/2021/062478