新たなケミカルツールの開発として、領域内の共同研究によりUSP8活性の簡便な測定法を開発し、阻害剤を探索した。ユビキチンを豊富に含む細胞内高粘度領域を可視化するため、粘度応答性化学プローブの開発を行い、高粘度酸性オルガネラの可視化に成功した。この他に、USP8の自己阻害メカニズムの構造解析に必要なUSP8タンパク質の配列を検討し、精製を進めた。 開発ツールを活用して野生型USP8の作用機構を検討し、細胞分裂期にUSP8の自己阻害が解除され、これによりエンドソーム動態が制御されることがわかってきた。また、自己阻害の解除機構として、ある種のエンドソームタンパク質がUSP8と相互作用することによってWW-likeドメインがUSPドメインに結合しにくくなることがわかった。 USP8のWW-likeドメインに変異もつクッシング病患者が見出されたので解析を行ない、変異がWW-likeドメインの自己阻害能を失わせることがわかった。これは、USP8の自己阻害の異常がクッシング病の主な背景分子機構であるという我々の仮説を強く支持する成果である。 USP8に関して積み上げた知見に基づき、関連課題の解決にも取り組んだ。一部のクッシング病患者ではUSP48に活性化変異が生じている。USP48の活性制御を調べ、C末端配列が活性化に必要であること、疾患変異によってC末端非依存的に活性化することがわかった。また、USP8以外の脱ユビキチン化酵素にも自己阻害機構があるか検討し、エンドソームに存在する脱ユビキチン化酵素であるSTAMBPとSTAMBPL1のMITドメインが酵素ドメインに結合することにより自己阻害が生じていることを見つけた。さらに、STAMBPL1はアポトーシス時に限定分解をうけて自己阻害が解除されること、その結果高い酵素活性を有する断片がアポトーシスを促進することを見出した。
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