がん細胞はユビキチン-プロテアソーム系(UPS)が活性化しているため、UPSを阻害することはがんの増殖抑制につながる。これまでにUPSを標的にした創薬研究が進められボルテゾミブなどが臨床応用されているが、耐性が生じやすいなど問題点が指摘されている。そこで、UPS阻害を狙った新たな標的分子の探索が重要だと考えられるが、従来の方法ではその探索は容易ではない。そこで、本研究ではプローブ分子自身がUPSの全てを辿り始めて蛍光性が変化する従来にない蛍光プローブの開発を目指している。これが達成されれば、従来のプロテアソーム活性阻害剤に限らず、この経路に関わる全ての酵素活性・相互作用などを標的とした阻害剤探索が可能になると考えた。その蛍光プローブ開発に関して、具体的にはPROTACの分子内にリジン残基を混在させ、PROTAC分子自身をユビキチン化させることを考えた。蛍光分子、リジン残基、ユビキチンリガーゼのリガンドの三者を持つプローブ分子を20個ほど合成することに成功し、プローブ開発の効率化を図るために固相合成のみでその合成が可能になるよう分子設計の変更を模索し新たなプローブの開発にも成功した。また、合成したプローブを用いてin vitro ubiquitylation assayを行い、in-gel fluorescenceを観察したところ幾つかの蛍光プローブにおいてユビキチン化が進行することが示唆された。この結果は、タンパク質に限らずE3リガーゼと基質の複合体が適切に配向しさえすれば小分子基質でもユビキチン化が起こりうることを示唆する。今後、得られた結果を慎重に解析し新たなプローブ開発、UPS阻害剤開発へ応用する予定である。
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