研究領域 | 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み |
研究課題/領域番号 |
21H00298
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坪田 有沙 (平野有沙) 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60806230)
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研究期間 (年度) |
2021-08-23 – 2023-03-31
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キーワード | 概日時計 / 概日リズム / 冬眠様行動 |
研究実績の概要 |
本研究では、冬眠様状態(QIH)を誘導し「低体温・低代謝状態の脳内において体内時計システムがどのように時を刻み、また時の流れがどのように認知されているか」を明らかにすることを目的とする。QRFP神経を特異的に操作するために、Qrfp-iCreドライバーマウスにCre依存的にhM3Dq-mCherryを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)をマイクロインジェクションし、QIHを誘導した。申請者はこれまでに、行動リズムの位相が冬眠誘導前と回復後で全く変わらないという予備的知見を得ていたが、さらにそれらが冬眠誘導のタイミングによらないことを見出した。さらに、分子時計の挙動を調べるために時計タンパク質PER2にルシフェラーゼを融合させたタンパク質を発現するノックインマウスとQrfp-iCreマウスを交配し、QIHを誘導した。マルチインビボイメージャーを用いて、自由行動下のマウスから恒暗条件下でルシフェラーゼ発光を計測した。まず、中枢時計であるSCNにおいてPER2::LUCの発現を経時的に観察したところ、24時間周期のリズミックな変動が観察された。さらに、腎臓や肝臓などの末梢時計においてもリズムが確認できた。これらの結果は、24度という低体温に晒されても概日リズムの周期が維持されていること、分子振動が維持されていることを示しており、神経活動が抑制された状況においても概日時計による時が刻まれていると考えられる。さらに、これらと並行してより時間分解能が高いQIHの誘導法を開発した。これまでの既存の光遺伝学ツールでは、低体温を誘導できてもそれを長期間維持することができなかったが、オプシンであるOPN4を用いることで、安定した低体温状態を作り出すことに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、10月からの参加であったため、実質的に6ヶ月しか研究期間がなかった。その中では、当初予定していた通りの研究成果が得られたと評価できる。特に、低体温・低代謝状態の個体における概日時計の挙動を中枢および末梢のレベルで明らかにした意義は大きい。しかし、冬眠マウスを用いた時間認知については、研究期間の関係上、大きな進展がなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、冬眠様行動を誘導したときの行動リズム位相と分子時計に対する影響を明らかにすることができた。意外なことに、24度まで体温が低下してもほとんど変わらない速さで時を刻むことが判明した。次年度は、分子振動だけでなく、神経活動にもフォーカスして研究を進める。24度の低体温状態や冬眠中では、神経活動が大きく抑制されていることが知られている。その中でも、概日時計が時を刻んでいるのであれば中枢の時計ニューロンの活動にもリズミックな変動が見られる可能性がある。そこで、自由行動下のマウスから電気生理測定を行い、SCNにおける時計ニューロンの活動を数日にわたって観察する。また、培養条件で分子振動が停止する条件においても、カルシウムの振動が維持されている知見がある。そこでカルシウムインジケーターであるGCaMP6をSCNに発現させ、ファイバフォトメトリーで長期間にわたって測定する実験系を確立する。QIHを誘導する前とした状態でSCN内のカルシウム変動に違いがあるかどうかを観察する。また、概日時計は振動体を持つだけではなく、そこから生理リズムを出力することで時刻に依存した生理機能を制御するが、冬眠様行動中にもそのような機構が働いているかどうかは未知である。本研究では特に、内分泌制御に焦点をあてて、QIHを誘導したときのマウスのコルチコステロンの分泌の時刻変動にどのような影響があるのかを明らかにする。
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