研究実績の概要 |
脳が外界を知覚する、まさにその機能が、脳の時間の最小単位を規定する。例えば聴覚では、数100ミリ秒の時間窓(時間幅)が単位となり、この時間窓内の刺激は、ひとつの聴覚イベントに統合されて聞こえる。この時間窓の長さには種差があっても、不思議ではない。そして、もし感覚野の知覚処理に時間窓の種差があるならば、感覚野から情報を受ける連合野や他の脳部位にも、それに応じた時間窓の種差があるはずである。つまり、外界情報の知覚を規定する境界条件としての時間窓は、いわば、脳の時間の単位や秒針のようなものと言える。そのため、知覚の時間窓が進化でどのように変化したか(あるいはしなかったか)は、脳の時間の種差を考える上で、極めて根本的な問題である。 しかし、知覚の時間窓に種差があるかもしれないという可能性そのものが、これまでほとんど検討されたことがない。そこで本研究は、ヒト、チンパンジー、マカクザル、マーモセットという霊長類4種に、霊長類以外の哺乳類であるイルカとウマの2種を加えた全6種を対象とした比較研究により、時間処理がとくに重要な聴覚に注目し、脳の知覚の時間窓の進化を明らかにすることを目的とした。脳活動の指標には、頭皮上から無侵襲で記録できる、聴覚誘発電位(AEP)を利用する。 本年度の研究では、霊長類4種の比較を先行して行い論文として発表した(Itoh et al., 2022)。また、ウマおよびイルカから脳波を記録する方法論の開発を進め、1分以内の短時間を断片的にであれば、脳波を記録できるようになった。
|