研究領域 | 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み |
研究課題/領域番号 |
21H00309
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
武井 智彦 玉川大学, 脳科学研究所, 准教授 (50527950)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 状態推定 / 予測 / 運動制御 / 頭頂連合野 / 運動適応 |
研究実績の概要 |
本研究では以下の2つのPhaseを達成することを計画している。まずPhase1では、サルから記録する行動データに基づいて、過去の感覚情報から未来の状態を推定する人工神経回路モデル、すなわち「状態推定」の人工神経回路モデルを構築する。次にPhase2では、Phase1で同定した状態推定の神経基盤を明らかにするため、マカクザルを対象とした前頭-頭頂皮質の多チャンネル神経活動記録およびその神経活動阻害を行い、人工神経回路と実際の神経回路の対応を明らかにする。研究計画の初年度である本年度は、特にPhase2の生理実験のセットアップの立ち上げに注力した。マカクザル2頭に対して、到達運動を用いた力場への適応課題の訓練を完了し、肩・肘の16筋への筋電図電極の埋め込み手術を完了し、さらにそのうち1頭に対して皮質脳波(ECoG)記録電極の埋め込みを完了した。これにより力場適応課題中の前頭頭頂領野での誘発電位の変化を検討した。その結果、学習初期には、背側運動前野(PMd)、一次運動野(M1)、一次体性感覚野(S1)、頭頂葉5野(A5)で力場開始後に生じる誘発電位が生じたが、学習後期になるとPMd、S1、A5での誘発電位が減弱した。その一方、S1およびA5では、力場開始前から力場開始時点をピークとするような新しい電位成分が観察されるようになった。これを確率的状態推定の手法であるカルマンフィルタリングによってシミュレーションしたところ、S1、A5で力場開始後に誘発される電位応答は力場の「感覚予測誤差」を表現し、力場開始時点をピークとする新しい成分が力場の「事前推定」を表現するという仮説が得られた。この結果は、予測的な運動制御の神経メカニズムを明らかにする上で、カルマンフィルタリングと言う計算論の神経実体を示す大変有用な知見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目標として、感覚情報に基づく状態推定、さらに予測的な運動制御の神経基盤を明らかにすることを計画していた。これに対して、本年度までに、サル2頭において行動課題の訓練および筋電図電極の埋め込み手術を完了した。さらに1頭において皮質脳波記録による電気生理学的検討および行動学的な検討を行うことができ順調に成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
今回得られた仮説をさらに検証するために、異なる力場適応課題を行い、S1、A5での誘発電位が感覚予測誤差や事前推定を表現しているのかについての検討を進める。さらに2頭目個体での再現性の検討を行う。Phase1にあたる計算論およびネットワークによるモデリングやシミュレーションも異なる力場条件について行い仮説の検証を行う予定である。
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