公募研究
海馬には時間事象に従って時系列に活動を示す細胞群が存在する。これは時間細胞と呼ばれ、ある決まった長さの時間事象に対し、数秒単位で時間生成を行う事が知られている。しかし、出来事には決まった時間ばかりではなく、さまざまな時間のもののほうが多く、そういった事象時間がどのように脳で表現されているかは分からない。我々は、海馬に、事象の終了後に時間特異的に活動する細胞群(セルアセンブリ)を発見し、事象終了細胞と名付けた。本研究は、事象終了細胞のセルアセンブリが時間生成にどんな機能的役割の解明を目指す。本年度は、蛍光カルシウムセンサータンパク質を発現するトランスジェニックマウスの脳に光学窓を設けた。回復後、マウスをトレッドミルに載せて頭位を固定し、モニタに映し出された仮想直線路にある報酬地点に着くとすぐに一定の回数の報酬(水)が得られる課題と報酬の回数をランダムにする課題を行わせた。それら課題の学習中に海馬CA1の約1000個の神経活動を2光子カルシウムイメージングで記録した。まず、事象終了細胞のセルアセンブリはマウスが報酬地点を学習する時に形成されるのかといった、いつどのように形成されるか、その形成過程を調べた。報酬の回数を10回に固定した場合、事象終了細胞はすぐに形成された。一方で、報酬の事象を時系列に示す時間細胞は学習と共に徐々に増える傾向が見られた。これは、海馬の学習による事象の表現に事象終了細胞の活動が関係している可能性を示唆した。次に、事象終了細胞の活動が報酬消失時の予測誤差を表現していないことを示すために、トライアル間の活動の強さを比較した。十分な報酬を得た後でも事象終了細胞の活動の強さに変化がなかった。それは事象の時間をランダムに変えても終了時にいつも反応した。従って時間事象の終わりを表現する細胞であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標であったセルアセンブリの形成過程を調べるための実験データは取得することができた。その後、別の研究室に異動したため、in vivo 2光子イメージングの再導入に時間を費やしたが、光遺伝学とイメージングの両立ができる実験系に改良も行っている。
引き続き、同様のデータを取得するとともに、報酬認識か報酬場所認識か特定するために、報酬場所細胞が音の提示後に与えられた報酬にも関連した発火を示すかも明らかにする。さらに、光遺伝学とイメージングの両立ができる実験系を確立し、記憶痕跡への報酬場所細胞の関与とその形成に対する報酬系セロトニン神経の関与を明らかにする。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Hippocampus
巻: 31 ページ: 235~243
10.1002/hipo.23300
The Journal of Neuroscience
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10.1523/JNEUROSCI.0208-21.2021
http://glutamate.med.kyoto-u.ac.jp