同じ時間を過ごしても、嫌いな人といる時間は長く感じるのに、好きな人といる時間はあっという間に過ぎてしまうように、時間長の感じ方は社会的状況の影響を受けることがある。本研究課題では、社会的情報の影響を受ける時間処理に関わる脳神経基盤は何かという問い対する答えを出すことを目指した。そのため、ヒトと近縁種であり脳構造が近いマカクザルを対象に、社会的情動情報の時間知覚を明らかにし、その情報の時間判定時の脳内ニューロン活動を解析した。 2021年度にサルを対象に2つの社会的情報刺激の提示時間を比較する課題を課し、社会的情報により時間処理に影響を受けた動物モデルを確立し、負の他個体刺激の提示時間を実際より長く感じ、正の他個体刺激の提示時間を実際より短く感じていることを明らかにしていた。 2022年度、上記課題中に複数の自律神経応答を記録し、社会的情動情報の時間知覚に影響する要因を解析した。自律神経応答として、鼻部温度変化と脈波変動を解析した。鼻部温度変化では、実際より長く感じた嫌悪刺激に対して交感神経の活動の亢進に伴う有意な温度低下を示した。また脈波変動では、嫌悪刺激に加えて負の表情刺激に交感神経活動が亢進し、一方で正の他個体刺激に副交感神経活動の亢進に伴う変化がみられた。よって、交感神経活動の亢進と時間知覚の延長、副交感神経活動の亢進と時間知覚の短縮、という関係性を見出し、覚醒度が時間知覚を歪める可能性が示唆された。 さらに扁桃体ニューロン活動の記録を行ったところ、2つの刺激提示が終わり、時間比較結果を行動で答える前の期間において、対象となる刺激の提示時間のほうが短いと判定したときに大きなニューロン活動を示した。よって、これまでの知見にない、扁桃体ニューロン活動と時間知覚の関係を示すことができた。
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