研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
21H00324
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
新竹 純 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (10821746)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ソフトロボティクス / 生分解性 / 持続可能性 / グリーンロボティクス / アクチュエータ / センサ / SDGs |
研究実績の概要 |
本研究では、機械的な特性と電気的な特性が両立した生分解性材料と、それを適用したアクチュエータやセンサといった要素を開発することを目的としている。材料の電気的な特性の目標値としては、絶縁体の場合は1×10 Ω・m以上、導体の場合は1×10 Ω・m以下としている。機械的な特性の目標値については、ヤング率0.1-2 MPa程度で伸縮性が100%程度の伸び歪みとしている。当該年度では、主材としてゼラチンに着目し、グリセロールや塩化ナトリウム、セルロースを添加剤として、それらの多寡が結果としてできる材料の特性にどのように影響するのかを、実験を通して明らかにした。その結果、電気的特性と機械的特性を満足する材料を得ることができた。 開発した材料を電気的に駆動するソフトアクチュエータに適用し、生分解デバイスとして動作可能かどうかを検証した。具体的には、液体を内包した絶縁性フィルム上に、開発した材料を電極として塗布した静電流体アクチュエータを構成した。液体には植物油、絶縁性フィルムにはポリ乳酸とポリブチレンアジペートテレフタレートの合成樹脂をそれぞれ用いており、これらはいずれも生分解性材料である。実験の結果、アクチュエータは印加電圧に応じた大変形を出力することが確認でき、電気的に駆動される生分解性デバイスとして機能することが分かった。 ゼラチンを主材としたセルロースの添加は海外機関との共同研究という形でも行っており、その副次的な効果として、材料の3Dプリントが可能になることを見出した。これは、セルロースによって流動性を調整できることに起因しており、これまで困難であった柔らかいゼラチン材料の精度の高い3Dプリントができるようになった。これは、当該研究の今後の遂行において非常に強力な手段となるものである。 以上の活動に加え、これまでの知見を活かした共同研究を国内外の研究者と行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、機械的な特性と電気的な特性が両立した生分解性材料と、それを適用したアクチュエータやセンサといった要素を開発することを目的としている。材料の電気的な特性の目標値としては、絶縁体の場合は1×10 Ω・m以上、導体の場合は1×10 Ω・m以下としている。機械的な特性の目標値については、ヤング率0.1-2 MPa程度で伸縮性が100%程度の伸び歪みとしている。 研究実績の概要でも述べた通り、当該年度では、主材としてゼラチンに着目し、グリセロールや塩化ナトリウム、セルロースを添加剤として材料の特性解析を行った結果、導体としての電気的特性と機械的特性を満足する材料を開発した。そして、開発した材料を電気的に駆動する静電流体アクチュエータに電極として適用し、生分解性デバイスとして機能することを実証した。 絶縁体としての材料については、絶縁性を向上するとされるセルロースの添加によって開発を行ったが、一定の効果は見られるものの、目標とする電気抵抗率である1×10 Ω・mを下回る結果となった。これは、主材とするゼラチンが含有する水分に起因したものだと考えられる。他方、ゼラチンを主材としたセルロースの添加の副次的な効果として、従来は困難であった柔らかいゼラチン材料の高精度な3Dプリントが可能になることを見出した。 導体としての材料の開発と生分解性デバイスへの適用は達成できており、後者は次年度の事項であったことから、この方向性での取り組みは想定以上に進んでいると考える。絶縁体としての材料の開発については、目標値を下回っていることからさらなる取り組みが必要である。したがってこの方向性では当初の想定より進んでいないと考えるが、副次的な結果として材料の高精度な3Dプリントが可能になったことは、その適用性を鑑みれば大きな成果である。以上を踏まえて、全体としては進捗状態は良好であると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発した導体としての生分解性材料を適用した、さらなるソフトロボット要素の製作と実験を進め、ソフトロボティクスにおける有効性の検証を行う。要素としては当初の目的通りアクチュエータとセンサであり、前者についてはすでに開発した静電流体アクチュエータを発展させながら、誘電エラストマーアクチュエータといった他方式の導入も行う。センサについては、応答性能に優れる静電容量方式のものを想定している。 絶縁体としての生分解性材料については、当初の目標値の達成に向けた取り組みを継続する。方針としては水ではなく油脂で柔らかさと形状を保つオレオゲルといった、より絶縁性に優れるものを主材として取り入れ、添加剤の検討および特性の解析を通して材料の開発を行う。目的とする特性を得られた段階で、ソフトロボット要素への適用を行う。 ゼラチンを主材とした材料の3Dプリントに関する研究を継続し、ソフトロボット要素の製作に注力しながら、導体と絶縁体を任意にプリントするマルチマテリアルプリンティングの実現に取り組む。これが達成できれば、広範な生分解性ソフトロボット要素を迅速に製作できる基盤技術になると見込まれる。 以上の取り組みによって開発したソフトロボット要素について、非生分解性の同タイプのデバイスとの比較を行うことで、有効性や生分解性を取り入れることによるトレードオフを明らかにする。また、分解プロセスにかけて、分解過程における特性変化も評価する。さらに、開発した生分解性ソフトロボット要素がシステムとして動作できるかを検証するために、センサによるアクチュエータの簡単なフィードバック制御を行う。この際のデバイスの構成としては、例えば紙基板にアクチュエータとセンサを貼り付け、曲げ変形の制御を行うことが考えられる。これらを通して、本研究で開発した材料と要素の、生分解性ソフトロボットへの有効性を明らかにする。
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