生きている細胞やその組み合わせでできた組織を部品として使用したロボットをバイオロボットとよびます。細胞は、培養される環境に応じていろいろな機能を持つ細胞に変化したり、組織の形を作り替えたりする機能を持っています。私たちは、この機能を利用することで、環境に応じて部品の形や機能そして動作が自発的に変化する機能をロボットに実装できると期待しています。 本研究では、iPS細胞を適切に培養して得られる大脳のミニチュア(脳オルガノイド)を作って、これをロボットの制御装置として使用します。また、動物の生きた筋細胞を使って実際の筋肉と同じように収縮す培養筋肉を作ってこれをロボットアームとして使用します。脳オルガノイドに電極を刺して電気的な活動を計測した結果、脳オルガノイド中のニューロンが電気的信号をランダムに発生していることがわかりました。簡単に表現すると、脳オルガノイドはランダムに電気を発生する生きている電池とみなすことができます。この生きている電池を細胞培養でつくった筋肉に載せると、筋肉の端から端まで配線が自発的に伸長することがわかりました。しかし、生きている電池を載せても筋肉は大きく収縮するなどの自発的な動作をすることは有りませんでした。 一方で、生きている電池と細胞培養でつくった筋肉とのつながりを遮断する毒薬(筋弛緩剤)を培養液中に混合すると、筋肉が大きく弛緩することがわかりました。この結果は、生きている電池が筋肉を一定の形に維持していたことを示唆しています。以上の研究から、我々の作ったバイオロボットが大きな自発的動作を生じなかったのは、脳オルガノイドが培養筋肉の形の変え方を学習していないためであるという仮説に至りました。今後は、この仮説を検証するために、バイオロボットに体の変え方を教える方法を確立し、その教育効果を検証するための研究を遂行する予定です。
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