研究領域 | ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明 |
研究課題/領域番号 |
21H00336
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大橋 順 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80301141)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 縄文人 / 日本人特異的変異 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は,縄文人に由来する日本人特異的変異の特徴について調べた. 有効集団サイズが小さい縄文人集団では弱有害変異であったものが,渡来人との混血後に集団サイズが増加したことによって有害度合いが顕在化したと仮定し,かかる有害変異の頻度減少に伴って周辺ゲノム領域から縄文人由来ゲノム領域がどの程度消失するかを検討した.実データを用いた解析では,1KGデータを使用して日本人集団特異的変異を抽出し,同義変異,ミスセンス変異,ナンセンス変異,フレームシフト変異,それ以外の5つのカテゴリーに分けた. シミュレーション研究では、縄文人集団の集団サイズを1,000人とし,100世代前(3,000年前)に縄文人集団と渡来人集団は0.13:0.87の比で一度だけ混血し,混血後の集団サイズが7,692人(=1000/0.13)になるとした。縄文人集団ではDアリルが固定していたとすると,混血時のDアリル頻度は0.13である.この条件で,Wright-Fisherモデル下でforward simulationを行った.s>0.01であれば混血後にDアリルの頻度は減少し,現在(100世代経過後)のDアリル頻度は低くなったが,s>0.001であれば顕著な頻度減少は起きず,機会的浮動の影響が大きかった. 組換えを考慮したforward simulationを行い,有害アリルの頻度減少が周辺ゲノム領域に与える影響を調べた.混血時はDアリルは縄文人由来セグメントと連鎖不平衡の関係にあり,Dアリルが集団中から失われていくと周辺の縄文人由来セグメントも失われる.forward simulationの結果,10cM離れた領域の縄文人由来セグメントにまで負の自然選択の影響が及ぶことがわかった.現代の本土日本人のゲノム中に縄文人に由来するゲノム成分が渡来人に由来する成分よりも少ない理由の一つかもしれない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全ゲノム配列解析が順調に進んだからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後、1KGデータの解析を行う。 1KGデータの26集団の遺伝子型データから,singletonを除く常染色体2アリル多型の遺伝子型データを抽出した.SnpSiftを使用して,SYN(同義変異),NSM(ミスセンス変異),NSN(ナンセンス変異),NSF(フレームシフト変異),OTH(その他)の5つにカテゴリー分けし(複数の注釈ついたもの除外), JPT(日本人集団)にのみ観察される多型を抽出したデータセットと,比較用にCHB(中国漢民族人集団)より多型を抽出したデータセットを用いる. 次に,比較的数の多いSYN(同義変異),NSM(ミスセンス変異),NSN(ナンセンス変異)に着目し,各変異周辺前後500kbの領域におけるJPT特異的変異の個数(密度)とそれらの平均アリル頻度を計算する.混血後に負の自然選択が作用したミスセンス変異やナンセンス変異の周辺領域では多様性が下がっていると予想されるので,同義変異の分布を参照し,どの同義変異よりも平均アリル頻度と密度が低い変異を探す。 予備的検討の段階ではあるが、興味深いミスセンス変異について述べる.1つはnephrocystin-1分子をコードするNPHP1遺伝子上のミスセンス変異である.nephrocystinは,結合蛋白として細胞対細胞,細胞対細胞外マトリックスのシグナル伝達や細胞接着に重要な役割を果たす.また,NPHP1遺伝子(欠損)は若年性ネフロン癆の責任遺伝子である.もう1つはspermatogenesis-associated protein 31A3分子をコードするSPATA31A3遺伝子上のミスセンス変異である.これらの変異に負の自然選択が作用した痕跡をゲノムデータから見出すのは困難であるが,機能的意義や疾患との関連という視点から,負の自然選択が作用した可能性を今後検討したい.
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