研究領域 | ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明 |
研究課題/領域番号 |
21H00338
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 哲久 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (40581187)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 単純ヘルペスウイルス / ウイルスゲノム編集法 / BACシステム / 致死遺伝子 |
研究実績の概要 |
地球上には10の31乗個ものウイルス粒子が存在し、この惑星の各地で、ウイルスと人類は共進化を繰り返しきた。島国に居住するヤポネシア人は、歴史上、何度も「ヤポネシア亜型のウイルス」との共進化を経験してきたことが想像される。そこで、本研究は、ほぼ全ての人類と共生状態に至っているヒト・ヘルペスウイルス(HHV) に着目し、(i) 各年代のヤポネシア亜型の単純ヘルペスウイルス(HSV)を遺伝子工学により復元後、(ii) 遺伝子産物の違いを有する各ヤポネシア亜型のHSVを選抜し、各ウイルスの性状を解析することで、HSVがヤポネシアの成立・発展に与えた役割を紐解くことを目標とした。 研究代表者の所属研究室では、単純ヘルペスウイルス(HSV)の組換え法(BACシステム)を確立した実績を有している。BACシステムは、①人工染色体(BAC)へのウイルスゲノムのクローニング、②BACクローンの大腸菌内保持、③大腸菌内でのBACクローンへの変異導入、④BACクローンからの感染性ウイルス粒子の再構築、から構成される。①②は十分に洗練化され、③もポジティブ・セレクションとネガティブ・セレクションを併用した2段階の相同性組換え法により、あらゆる変異導入が可能である。しかしながら、③では「ネガティブ・セレクション時、レプリカ作製による感受性試験が必要である」、④も「再構築効率には改善の余地が大きい」ため、サンプル数の増加に伴い、③④の労力は加速度的に増す。すなわち、BACシステムにより作出可能な組換えウイルス数には、事実上の制限があり、各年代のヤポネシア亜型のHHVを遺伝子工学的アプローチにより復元するためには、③④の改良が不可欠である。そこで、本年度は③部分の改良を試み、致死遺伝子と細胞内発現型制限酵素の併用により、レプリカ作製を必要としない新たなBACシステムを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記載した通り、本研究では、(i) 各年代のヤポネシア亜型の単純ヘルペスウイルス(HSV)を遺伝子工学により復元後、(ii) 遺伝子産物の違いを有する各ヤポネシア亜型のHSVを選抜し、各ウイルスの性状を解析することで、HSVがヤポネシアの成立・発展に与えた役割を紐解くことを目標としている。 (i)に関して、技術的なハードルを低くするため、HSVゲノム編集法の改良が不可欠であったため、本年度は「ネガティブ・セレクション時、レプリカ作製による感受性試験が不必要なシステム」の構築に着手した。複数の致死遺伝子を導入した結果、現行の組換えシステムで、効率的に併用可能な致死遺伝子の同定に至り、BACシステムをさらに進歩させることができたと考えられる。また、確立したシステムは、HSVのみならず、他のウイルスでも適応可能であることも、1種に関してのみであるが確認できた。本進捗はウイルス学的観点からは非常に有益なものであると判断できる。しかしながら、コロナ禍もあり、対面での領域班会議が全く開催できなかったこともあり、考古学をご専門とする班員との共同研究に全く着手することができなかった。そのため、各年代のヤポネシア亜型のウイルスの遺伝情報を収集することもできなかった。かろうじて、班会議において、消化器系由来の化石より、ヘルペスウイルスの遺伝情報も断片的ではあるが検出されていたと思われるといった情報収集はできたが、具体的な知見を共有するには至ることができず、(i)を達成することができなかったことから、本研究はやや遅れていると判断せざるおえない。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の予定通り、研究実績の概要に記載した (i)および(ii)を遂行する予定である。ただし、本年度、確立した新しいBACシステムに関しては、理論上、新型コロナウイルス研究にも展開可能であり、特に、変異株の性状解析を加速させることが期待されることから、社会情勢を鑑み、早期の発表・関係研究者への技術提供を積極的に試みる予定である。 (i)に関しては、6月開催予定の対面形式での領域班会議を活用することで、当初期待した共同研究の枠組み確立を最優先しつつ、既存のデータベースを利用し、独自に、特徴ある変異を有するHSVを作出することとする。 (ii)に関しては、(i)において作出された遺伝子組換えHSVを、各種培養細胞を用いたウイルス増殖性の解析やマウス病態発現モデルを用いたウイルス病態発現機構の解析に供していく予定である。特に、病態発現機構の解析に関しては、からなずしも急性感染期に解析を絞るのではなく、ヘルペスウイルスの特徴である潜伏感染や再活性化といった性質に関しても解析することで、長期的な視点からの宿主との共生機構に関しても解析を進めることとする。
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