イヌは人類の移動に伴って世界中に広がったと考えられ、そのためイヌの移動の歴史は人類の移動の歴史を反映していると予想される。私たちの研究グループにより日本犬は遺伝的に独自性の高い犬種であることが明らかになった。日本犬のゲノムには、縄文人と一緒に日本列島へ渡来した縄文犬、渡来系弥生人と一緒に渡来した弥生犬が大きな影響を及ぼし、戦国時代以降に大陸から持ち込まれたその他犬種や、過去の交雑が明らかになったニホンオオカミのゲノムも小規模ではあるが日本犬ゲノムの構成に寄与していると考えられる。そのため現在の日本犬のゲノム構成は縄文犬、弥生犬のゲノムが主となり形成され、その構成には人類の日本列島への渡来の歴史が反映されていると予想できる。本研究では縄文時代、弥生時代に起きた人類の日本列島への渡来が、一緒に渡来したイヌを祖先とする日本犬のゲノム構成に影響を与えてきたかを明らかにすることを目的としている。 本年度は、鳥取県の青谷上寺地遺跡(弥生時代)出土のイヌ2個体の全ゲノム解析を行い、これらのイヌが稲作文化を伴って渡来した渡来系弥生人の環境に適応していたことを明らかにした。また、礼文島の浜中2遺跡から出土した属縄文時代とオホーツク文化期のイヌからDNAの抽出を行い、全ゲノム配列決定、全ゲノム解析を行なった。その結果、これらのイヌはこの遺跡で生活していた海洋民族の食事に適応していたことが明らかになった。また、縄文時代のイヌの全ゲノム解析から、縄文犬の系統は現存のイヌの主要なゲノム成分の1つを供給していることを明らかにした。
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