研究実績の概要 |
本年度は、出土土器の炭化付着物を中心に残存タンパク質の分析を行った。土器付着物からタンパク質調整には、FASP(Filter Aided Sample preparation)法を用いた。 6つの異なる遺跡で出土した土器付着物を用いてプロテオーム解析を実施し、ペプチド数が2本以上, 脱アミド化の翻訳後修飾が1か所以上 FDR<0.01の基準で、 植物由来のタンパク質を多数同定することができた。 イネのGermin様タンパク質、ダイズのグリシニンや7Sグロブリン、ゴマの11Sグロブリンが検出され、いずれもCupin ファミリーに属するタンパク質であった。Cupin ファミリータンパク質は、種子貯蔵タンパク質に見られる Cupin モチーフを有しており、熱耐性、乾燥耐性、プロテアーゼ耐性を有すると考えられている。一方で、Cupin ファミリータンパク質ではないデンプン合成酵素タンパク質が検出された試料も見られたが、検出されたペプチド数が少なく、イネ科植物に保存された領域しか検出することができなかった。 検出ペプチドのアミノ酸配列を用いた相同性検索(BlastP)の結果、植物種に特異的なアミノ酸配列が検出されたものが多かった。一方で、ダイズのグリシニンG1タンパク質は、C末の領域の多くのペプチドが検出され、脱アミド化されたペプチドも多く検出された試料が複数見られた。これらの検出領域は、野生種のツルマメにも同じ配列が存在していたが、N末領域にはツルマメとダイズで異なるアミノ酸配列が存在することから、これらの領域を検出することができれば、ツルマメとダイズを区別できる可能性が示された。以上のように、土器付着物のような炭化している試料で、かつ多数の生物種からなると予想される試料においても、試料中の食材となったと思われる植物種が同定可能なパレオプロテオミクスの実験系を構築することができた。
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