研究領域 | ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明 |
研究課題/領域番号 |
21H00344
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
本橋 令子 静岡大学, 農学部, 教授 (90332296)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サトイモ / タロ / ゲノム / 系統解析 / SSRマーカー / GRAS-Di解析 |
研究実績の概要 |
14カ国、60サンプルの材料について11のSSRマーカーを用いて、Structure解析を行なった結果、3つのグループ一に分ける事ができた。60サンプルのうち日本の19サンプルは、古から日本に自生、または栽培管理されていると歴史的な記載や伝承が残っているサトイモ系統が多く含まれ、それらのサトイモの倍数性を調べたところすべて3倍体であった。また、『お腹を空かした弘法大師がおばあさんにサトイモを譲ってくれるように頼んだところ断られ、その結果、美味しそうなサトイモが食わず芋(石芋)になった』という弘法大師伝説が日本各地に点在するが、この石芋伝説のサトイモはえぐ芋(3倍体)と考えられ、台湾のえぐ芋系統を含むグループ3はすべてえぐ芋系統で、古くに日本にもたらされたサトイモ系統と考えられた。現在、芋は食用とされていないが、当時はエグ味を取り除いて食べていたと考えられた。また、以前解析した系統も含め162系統についてもStructure解析を行った結果、4つのグループに分ける事ができた。 さらに、サトイモ・タロに関する祭事を調査し、渡来起源種との関係を探った。日本書紀や古事記、出雲風土記によると、月読が重んじられ、古代人は月の道を好み、月舞はタロイモと関係があり、万葉集のウモノハはイエツキイモ(サトイモ)と考えられる。また、十五夜相撲などと月や豊穣の祝いも深く関係し、ずいき祭りで相撲が開催されているケースも多い。北野天満宮では例年10月1日より5日に京都市無形民俗文化財「西之京瑞饋祭」が行われる。平安時代より西之京神人が五穀豊穣を感謝し、菅原道真公の神前にお供えしたことが始まりで、1607年、豊臣秀頼が土一揆で焼失した北野天満宮を再興し、付近の農民と西之京神人達は連合して八方角の葱花れん型神輿をつくり、瑞饋の音にちなんでサトイモのずいきで屋根をふいたのが始まりであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、サトイモの渡来起源を探るために、縄文時代から自生していると考えられる複数の野生サトイモを収集し、栽培品種も含め162系統についてSSRマーカーを用いてPCRを行い得られた多型から、系統樹の作成及びStructure解析を行った。その結果、日本の古い系統群が台湾のえぐ芋系統と近縁であることがわかった。得られた結果について、日本進化学会第23回東京大会シンポジウム 12「ヤポネシア人がはぐくんだ植物のゲノム進化」において、ヤポネシア人とサトイモの来た道のタイトルで研究発表を行った。 また、詳細な系統解析を行うために、21国から収集した96サンプルについてGRAS-Di(Genotyping by Random Amplicon Sequencing-Direct)解析を行ない、Amplicon の有無で系統解析を行った。さらに、96サンプルの倍数性(2倍体か3倍体)についてフローサイトメーターを用いて決定し、倍数性情報と系統解析データを合わせて、系統分化について議論することができ、大きな成果となった。 サトイモ・タロに関する祭事を調査し、渡来起源種との関係を探るため、サトイモの茎を用いて神輿を作成するずいき祭りの調査も行った。北野天満宮では例年10月1日より5日に京都市無形民俗文化財「西之京瑞饋祭」が行われる。付近の農民と西之京神人達は連合して八方角の葱花れん型神輿をつくり、瑞饋の音にちなんでサトイモのずいきで屋根をふいたのが始まりであった。また、滋賀県野洲市三上山の麓・御神神社で通称「御神のずいき祭り」は、例年10月第2月曜に開催される。この祭りは1561年より行われており、その記録によると1541年から中断していた祭りを再興したとの記載があり、470年以上の歴史がある伝統的神事である。祭事に用いられているサトイモ系統も収集し、系統解析に含めることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、得られたGRAS-Di (Genotyping by Random Amplicon Sequencing-Direct)データのうち系統解析に用いることが可能な精度の高いマーカーを選択し、データ解析を行う予定である。まずは、96サンプルのランダムプライマーによる増幅産物(アンプリコン)の有無の1.0データを用いた系統解析を行う。また、アンプリコンの有無データを用いた主成分分析法を検討する。また、GRAS-Diデータから得られるアンプリコン配列情報から得られるSNP(Single Nucleotide Polymorphism)データの精度を検証し、精度の高いSNPデータを用いて、系統樹の作成及び主成分分析を行う。上記のように、GRAS-Diデータを様々な手法を用いて解析し、渡来系統を推測する。 さらに、日本に存在する古い系統から数系統及び、台湾、南中国、東南アジア、インドの系統のゲノム配列決定を検討する。しかしながら、サトイモのゲノムサイズは3Gb(2倍体)以上とゲノムサイズが大きく、日本の系統の多くは3倍体であり、さらにゲノムサイズが大きいことから、一部の領域について配列決定も検討する。 引き続きサトイモを用いた古くから伝わる祭事や伝承を調査し、古くからサトイモが栽培されていた地域の特定とともに、材料の収集を行い、サトイモとヤポネシア人との関わりを解明する。今年度は昨年度調査ができなかった沖縄などの島々や東北地域の祭事などを中心に調査を行う予定である。
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