研究実績の概要 |
われわれは日本人のゲノム多型の地域差を調べ、HLA遺伝子群の都道府県単位での遺伝子頻度データ等についてデータベースを整備してきた。これらのゲノム多型と56種類の指定難病の地理的分布を重ね合わせてみたところ、興味深いことに多数の「相関」する組合せを発見することができた。そこで本研究では、HLAの対立遺伝子やハプロタイプ、核ゲノムのSNPsの中で難治性疾患との「地理的相関」が認められる疾患関連候補多型を網羅的に列挙し、その関連を検証するための関連解析を実施する。 網膜色素変性症(retinitis pigmentosa)は網膜の視細胞が変性・消失することにより視力の低下や失明に至る疾患で、難病に指定されており、原因解明と治療法開発が期待されている。事前の解析で、日本の47都道府県におけるHLA遺伝子頻度の分布と人口あたりの患者数を比較したところ、HLA-DRB1遺伝子のDRB1*04:05対立遺伝子の頻度が患者数と正の相関を示した(r=0.536)。そこで、HLA遺伝子と網膜色素変性症の関連を検証するため、実際の患者のゲノムDNAを集めてHLA遺伝子を解析した。難病研究資源バンクから取得した兵庫県在住の患者ゲノムDNA(52名分)に対し、クラスI遺伝子のHLA-A, B, CとクラスII遺伝子のHLA-DRB1, DQB1, DPB1の合計6座位を対象とするタイピング実験を行った。その結果、健常人と患者群の間で頻度差がある対立遺伝子が散見されたが、当初注目していたDRB1*04:05については患者群で頻度が低く、関連は認められなかった(OR=0.72)。一方で、他の対立遺伝子やハプロタイプの中には患者群で高頻度に観察されたものがあり、疾患との関連が疑われる結果となった。そこで、追加で近畿地方の患者56名分のゲノムDNAを解析し、関連の検証を進めている。
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