研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
21H00360
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 哲生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20466783)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 根系 / 土壌 / 引き抜き / 曲げ弾性 / 分岐角度 / 強靭化 / 3Dプリンタ / モデル実験 |
研究実績の概要 |
本研究では,根の力学的な機能に着目し,根の分岐構造が土壌からの引き抜き挙動にどのような影響を与えるのかを調べた.パラメータの変化による力学的特性の変化を系統的に調査するため,実際の植物の根ではなく,3Dプリンタを用いて分岐構造を作製し,その場観察を行いながら強度を測定する実験を行うことで,制御されたモデル実験系による定量的理解を目指した. まず,3Dプリンタを用いて種々のモデル試験片を作製した.モデルの設計では,鉛直要素から側根が伸びる単純な分岐構造を採用した.また,土壌のモデルとしてはガラスビーズを用いた. そのうえで,分岐構造において,鉛直方向に対する分岐角度θが引き抜き強度への影響を見る実験を行った.その結果,予想に反し,分岐角度が約30度のとき(末広がりの分岐構造をもつとき)引き抜き強度が最大になることを見出した.また,引き抜き時の荷重-変位曲線をプロットしたところ,いずれの分岐角度においても相似的な形状を示したため,荷重および変位をそれぞれの最大値で規格化してみたところ,ほぼ1つの曲線に重なることが分かった.これは,引き抜きのメカニズムが分岐角度に依らないことを示唆している.また,最大荷重と他のパラメータとの関係を調べたところ,土壌中の応力鎖が働く体積とよい相関を示すことを発見した.これは,分岐構造が粉体中で示す特異は挙動を明確に裏付けることになった. 次に,分岐構造の幾何形状は固定したまま,材料の弾性率および太さを変えて引き抜き実験を行った.すると,最大引き抜き力が曲げ硬さ(弾性率 × 太さの4乗に比例)と強い相関を持つことが示された.また,曲げ硬さが大きいときには土壌を持ちあげるように変形し,大きな引き抜き力を示す一方,小さいときには簡単に曲がってしまうため,土壌中にほとんど変形を与えず,すべりながら引き抜かれるため,引き抜き力が小さくなることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,3Dプリンタを用いたモデル作成は,若干の困難はあった(細長く曲がりやすい構造は作製しにくいことが判明した)ものの,概ね当初の予定通りに作製を進めることができた.次に,引き抜き実験を行ったところ,分岐角度と引き抜き力との間に明確な関係が現れ,定量的な議論を通してメカニズムを推測することができた.また,曲げ弾性に対しても引き抜き挙動に大きな影響を与えていることを明確に示すことができ,詳細な観察から,そのメカニズムを理解することができた. このように,モデル構造の作製,引き抜き実験,パラメータ変化,結果の解釈が予想通り(予想以上に)進んでいるため,研究が順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,まず,この挙動を記述する理論モデルを構築することが挙げられる.すでに予備的な検討は済ませており,実験結果を概ね説明することに成功している.次に,ここで得られた知見を活用した土壌強化アンカーおよび繊維強化複合材料への開発も視野に入れている.メカニズムの深い理解をベースに,効果的でかつ簡便な材料・デバイス開発に繋げることで,新たな活用方法の獲得を目指したい.
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