植物の根は,養水分を吸収して地上部に供給するとともに,植物の体を支える重要な役割を果たしている.これまで,根の固定力に関する先行研究は行われてきたが,根の分岐構造の効果については十分に理解されていない.そこで本研究では,植物の固定力発現機構を調べるため,実際の植物の根系を用いるかわりに,構造を単純化したモデル根系を作製し,その場観察を行いながら引き抜き試験や倒伏試験を行うことで,根系の力学挙動を詳細かつ正確に調べた. まず,引き抜き試験においては,根モデルのヤング率や太さを系統的に変化させ,引き抜き力との関係を調べた結果,根の曲げ剛性によってよく表されることが分かった.観察結果から,曲げ剛性が小さいときと大きなときとで引き抜き挙動が全く異なることに着目し,両極限において引き抜き力を記述する理論モデルを構築した.実験と比較したところ,両者に良好な一致が見られた. 次に,剛直な根モデルに対して,分岐角度の異なる試験体を作製して倒伏力(倒伏モーメント)を測定した.その結果,ある分岐角度で極大を示すことが明らかになった.倒伏試験に対応する理論モデルを開発し,倒伏力の分岐角度依存性を計算したところ,実験をよく再現する結果が得られた. これらの結果から,根系の土壌への固定に対し,根系の曲げ剛性,根と土壌との摩擦や土壌の破壊が,現象にとって本質的な役割を果たしていることが明らかとなり,固定力の定量的評価への道筋が示された.
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